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銃撃、逃亡、上昇と咆哮
羽音と鱗粉を周囲に撒き散らしながら、蛾は自分の後を追ってきた。あくまで自分を幼虫達の餌として見ているのだろう。
見えているとは言え背面撃ちは難しい。蛾の方へと向き直り、後ろ向きで飛びつつ銃を抜き狙いを合わせ、撃った。

「……………」

弱点な筈の腹部に命中し、しかし平然と飛び続けている。緑色の汁が流れている事から命中はしたらしい。
若干ふらついている。しかし自分との距離は離れない、と、前方、自分の背後に樹が

「ふっ」

左側に方向転換、感覚が広い木々の間をすり抜ける。自分の身体が小さくて良かったが、蛾も平然と曲がり追い続けていて。
ならばもう一撃、こうなったら弾切れまで相手に当てる。久々の硝煙の匂いと反動に、理由不明だが全て当てられるような気がする。
構えを付けた所で地面に違和感、細やかな砂で擂り鉢状に凹んだ箇所が真後ろに

「え」

地面から砂を撒き散らし飛び出したのは大顎。鍬形虫。違う、蟻地獄。上昇。枝が頭を引っ掻く。蛾は忠実に自分の軌跡を追い続け。結果、しっかりと大顎に捉えられてしまった。蟻地獄は蛾が暴れる前に地面に沈み込む。
数秒経ってから、すり鉢状の巣から何か薄いものが吐き出された。体液を全て吸い付くされた蛾の残骸だ。流石に生きてはいまい。蟻地獄はこのまま無視をする。元々一ヶ月に捕まる蟻は二匹程度だ。

「………………」

今思えば、森の上を飛べば良かった。照準も合わせ易かっただろうし、木にぶつかる心配も無かった、筈であった。
十数本の樹が自分を見下ろしている。見た目は枯れ木だが、上方に生やされた無数の枝に、びっしり生やされた葉。ぐねぐねと風等関係なく蠢いているのが何とも。

おぉぉぉぉぉぉぉ!

紫色の口内が見えた、樹の筈なのに口があった。叫び声が空気を、森自体を震わせる。
樹ではない、魔物か。森の中で擬態していれば、自然と獲物が舞い込んでくる。自分は何か悪い事をしたのか、そういえば炎がまだ広がっていた。

「……………」

しなやかに蠢く枝が激しく揺れる。そうして森へと振り落とされた葉が揺らめきながら振ってきて、
衝撃が走った。

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あきゅろす。
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