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道が違うから袂を別つ
「そんじゃ、ここにサインと拇印を。」
用意していたらしい紙とペンと朱肉を渡されて、言われた通りに名前を書き、右手親指に朱肉をつけ、

──明日は明日の風が吹く。とでも思ってるのか。自分は力も魔力も無い………

考えを振り払って、しっかりと朱く染まった指を紙に押し付けた。
「…よっし、これでお前は便利屋の俺等の一員となったわけだ。」「おめでとさん!」
なっちゃったわけか。何だろう、もっとこう、ヤッホォォゥ!みたいな嬉しさが無いな……
「荷物を纏めたらすぐに便利屋本部に行くぞ。」
「お別れの挨拶でも済ませといたらどうだ?結構離れてるから……」
「解りました、荷物纏めてきます。」
そう言って部屋を出た。


「──本当にアイツで良かったのかよ?見た目通りに非力でガリ勉だと思うぞ?
わざわざ遠出して来てあれじゃあ、ガッカリしねぇかな?」
「……大事なとこ見落としてるみてぇだな、ヤクト。いいか、アイツはなぁ……」


「やぁサイ君、お叱りを受けてきたのかい?」
自分に割り当てられた部屋に行こうとしている最中、
ラーツが上機嫌そうに尻尾を揺らしながら話し掛けてきた。
確か憲兵に魔物襲撃事件(仮)で知っていることを遅くまで話していたようで、目の下には隈が出来ている。
「…いや、便利屋の一員になってきた。」「……わーぉ。」
驚きながら尚も尻尾は揺れ続けている。
「サイ君なんかに先越されちゃったなぁ……」
ラーツは嬉しそうに呟くと遠い目をして天井を見上げた。
「……約三週後、第一次憲兵採用試験…」
「へぇ……」
「…立派な憲兵になってみせるさ、サイ君を軽く笑えるくらいにねっ!」

びしぃっとこちらに指を突きつけて一言。

「……僕も、同じ様に頑張ってみようかな。」
「…あはは。サイ君はモヤシだもん。」「ラーツだって脳筋じゃないか。」
「………」「………」
暫く無言で見つめ合って、
「…じゃ、精々頑張ってね。」「…そちらこそ。」

ぎゅっと、握手。
手が予想以上に温かくて、肉球が柔らかい。


「それじゃ、また。」「また、いつか。」

そしてラーツは何処かに向かって歩いていった。

きっと次に会うときは糊のきいた制服に身を包んで、
堂々と胸を張って立っているのだろう。

自分も、それに張り合えるくらい堂々としていよう。

いち便利屋として。



第一巻、終。

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