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脱出、障害、生き餌と飛行
繭は絹の原料で燃えやすい。片腕から順に自分の身体が動く様に。そして熱い。炎に包まれているから当たり前なのだが。

「っく……」

外の世界、緑が濃すぎるような森の景色。急いで飛び出してみれば予想以上に高かった。寝ている間に樹の上に運ばれていたらしく、もうすぐ地面に、着地。
衝撃を殺すため身体を回転、そうしている間に足裏から痺れが広がる。体感では太股までせり上がってきた。
日差しが枝葉の隙間から差し込んできて瞳孔が縮む。痛い。目を細めながら振り返り、自分に何があったのか見た。

厄介な羽音を鳴らしながら、その魔物は多数の眼で自分を見返していた。
例によって蛾を無理矢理大きくし、身体全体に棘などを生やし禍々しくしたような外見だ。夜行性では無さそうである。
そして自分が閉じられていた繭は赤々と燃え盛っていて。作られていた樹には、大量の蠢く何かが。
全体に夥しい量の毛が生やされた、恐らくは蛾の幼虫だ。樹の根本から燃える繭の元へ登っている。端から見れば木の表面が波打っている様で。
もしも自分があの繭に閉じ込められたままだったら、新鮮な生餌として幼虫達に長々時間を掛けて喰われていた事だろう。

「………?」

急に視界がぼやけた。蛾の輪郭が正確に見えなくなっている。その上息苦しい。首を絞められているのではなく、喉に何か詰まったような苦しさ。
鱗粉は羽を守る為のものであって、撒き散らして獲物の視界と呼吸を奪うものでは無かった筈だ。何れにせよ危ない。

「……………」

捕集器を使うのも久し振りになる。特に問題も無く起動。霧状の「眼」が自分の周りに撒き散らされて。あの時は結局ヤクトさんに助けられた上に。
ぼやけた片眼の代わりに、何もかも見えた。幼虫の接写、蛾の複眼、地面、燃え盛る繭、同じくして燃えている樹。状況把握には十分、そして燃焼速度は中々に速い。

「……………」

マフラーを起動。片方はぼやけた視界、片方は正確に見える多数の周りの光景。
上手く飛べるか心配だが、背に腹は代えられない。飛行開始。まだ足は痺れている。

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