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着地、休息、異変と放火
シゼルニーと別れてから数時間後。空を飛ぶのも中々疲れるものだ。
マフラーの動力は尽きはしない筈。けれとも操縦するのは自分で、食事やら睡眠やらはどうしても必要である。

「……………」

真夜中だというのに、近くに町は見当たらず。上着は数枚持ってきたがテントまでは流石に用意してなくて。
下には唸り声が犇めいているような森。飛びながら眠るのは無謀に決まっている。結局枝を掻き分けて降りた。地面の感触は緩く、森独特の匂いもかなり強い。
もし帰ったなら空中で眠れるように、マフラーを少し継ぎ足すとしよう。心に決めてから、手頃な木の幹に背中を凭れさせる。上には何か嫌な気配がした。

「……………」

銃は何時でも撃てるように胸元でしっかり抱える。地面に寄った為か独特の臭気が強くなって。
空を見上げれば、鬱蒼と繁る枝葉だけ見えた。世の中それ程上手くは出来てないらしい。
実際、唯横になってじっとしているだけでも疲労回復は可能である。それでも眠気は舞い込んできて。

せめて朝起きた時に、身ぐるみ剥がされていたりはしませんように。そう願ってから、意識を落とした。




「……………」

ある意味予想通りと言ったところか、意識が覚めた時には身体が殆ど動かなくなっていた。目も開かない。
耳障りな羽音が遠くの方で響いている。足元に気配、それも大量の何かが。
焦ってはいけない。指先は僅かに動かせる、思い切り伸ばしてみたら布のようなものに触れた、それが自分の身体を包んでいて。

この手触りは知っている、確か蛾の繭と同じだったか。残念だが人間は成虫にはなれない。その様なお節介等御免被る。
何故、どうして、誰が、何で。そういえば蜘蛛は糸で獲物をぐるぐる巻きにし、溶解液で溶かしてから食べる。

「……………」

そういう事だとしたら、何もしなければ自分は死んでしまう訳だ。骨も残らない。ついでに所長、若しくはエンフィさんにも怒られない。
良いかもしれないと思ったが即時変換。指は動かせる、手首には牙がある。
手繰り寄せ、繭の内側を牙で擦る。忽ちに手元が熱くなった。

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あきゅろす。
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