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夢現、再開、依頼と指令
あの時は夢を見ていなかった。ずっとベッドの上の柔らかな感触に身を任せていた。
そこに声が聞こえてきて。気が付いたら自分が何も無い空間に一人立っている。所謂明晰夢という現象だろうか。これは夢の中だと自分自身で認識していたのだから。
本によればこの状態だと自由な夢を見る事が出来るらしいが、先程聞こえた声の方が気掛かりだった。
辺りを見回す。人影は見えない。見えたら見えたで問題だが、確かに今の声は。

『………サイ』
「…………」

何年振りかの再開。赤みがかった髪に、灰色の眼。猫背気味だが、それでも幾らか自分より高い身長。その為明らかに見下ろされている。
シゼルニー=アディストン。昔の友達。良く二人同じ部屋で本を読んでいた。あの時はそれで十分だった。

「久し振りだ、けど…」
『……ああ、久し振りだ、けど…』
「……一体どうしたの?少なくとも生物学なら君の方が詳しいと思うけど」

何せ彼の父親は生物学者で、彼は鳥の解剖まで一人でやってのけていた筈だ。蝿の腹に入っている子供の性別や数まで当てていたのだから。

『まさか、君が便利屋になっているなんて、思いもしなかった。そして実に都合が良くなった』
「……依頼?」
『うん』

有りもしない空間にいる筈だが、この時までは此処が夢の中だと忘れていた。
シゼルニーも立派に成長していた。身長差が埋まらなかったのは気になったが。

『最初に言っておくけど、僕は夢じゃない。現実世界での、正式な依頼をしたい。君個人に』
「…………」

漸く気付いた。これは夢なのだと。そしてシゼルニーは『clear-dice』ではなく自分だけに依頼をする気らしい。
夢の中の事だと笑い飛ばせはしない。妙なリアル感が漂っている。確かに自分の目の前で、シゼルニーは存在していた。

『簡単な事にする、サイは唯僕の指示に従っていれば良いんだ』
「…それはそれで、僕は何をすれば良いの?」
『先ずは朝起きたら、旅支度をする。そして便利屋から出てきてくれ、その後は指示を送るから』
「………どうやって指示を?」
『サイなら受け止めてくれる筈だ。もう朝だ、忘れないで………』

そして目が覚めた。何もかも覚えていた。

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