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皮を纏って凝っていた
郵便屋が来るなんて久しぶりだ。出会い頭の郵便屋に頭を深々と下げさせた事は全く始めての事だ。
手紙の受取人は自分。差出人の名前は封筒に書かれていない。自分に出す相手等相当なひねくれ者しかいない気がするが。

「いやー、すいませんねー……本当にノックぐらいするべきでしたよー…」

頭を朗らかな笑みを浮かべ掻きながら配達員の狼人はは謝罪する。今更理由を説明しても軽く流されるだろう。
部屋に戻って読もうとポケットの中に納めた。どうせろくでもない内容に決まっている。

「……身なり、背丈、種族、毛色他……全部覚えているよな?」
「勿論ですよ、赤毛の狼人、白を貴重としたこの辺りでは珍しい上下の合わせ、背丈はロッシュ以上ニッズ以下、声色やや高め、抑揚がはっきりしている…人相書でも出しますか?」

エンフィさんがすらすらと相手の特徴を諳じながら手頃な紙に顔を描き出している。何処まで多芸なのか。
と、配達員がまだ便利屋内に留まっている。自分に食い入るように顔を近付け視線を合わせた。良く見ると両眼とも昆虫に良く似た複眼。

「………イセラからデートのお誘いだ、羨ましいねー」

例によって聞き覚えのある声が。もしかしなくてもクグニエさんだ。自分の中で複眼の知り合いは彼一人しか居ないのだから。
して、イセラさんはイセラさんで大分香ばしい。しかし彼は何かを知っているようで。皆には悪いが、ここは乗る事にしよう。

「……っておいっ。配達員なら郵便物届けた後にゃ直ぐに帰れ!」
「はいよーっ!」

矢鱈と威勢の良い声を上げながら配達員、もとい狼の皮を被ったクグニエさんは去っていった。



『全略、サイ=スロード様
部屋の中でこの手紙読んでる?
をかしけれ、少し寂しいよ?
知識は大事です、役立つから。
ってか、本題に移るぞ。
てり焼きって旨いよね。
ルンバのリズムが恋しい。
かなり会いたいと皆言ってる。
もう正直疲れたんで簡単な日時を。
手紙が届いて二日後、──街の「喫茶 中毒者併発希望」でな。
貴方の遊び相手 イセラ』

【第十三巻 終】

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あきゅろす。
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