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蟲が碎けて舞い飛んだ
いかにも森の中と言った光景。鼻先を少し湿った草の匂いが擽ってくる。目標の相手を確認。

「………あれだよな?」
「……みたいだな………」

成る程確かに丸みを帯びたボウルを被ったような銀色の蟲があちこちに確認出来る。
動きはそれほど速くなく、ゆっくりと動き回っている。頭は小さく天道虫にしか見えない。
予想以上に楽そうだ。だが上手く倒せないと脛を噛まれてしまう。それは嫌だ。

「さぁて、それじゃーやりますか…こら、そこ…」

ヤクトさんがだるそうに魔物用の棍棒を構えて蟲を叩き潰す用意を、自分は倒せないかなと思っていれば何かに声を掛けた。
見ると何人かの獣人が蟲を一匹囲っており、その手にはハンマーと鉄製らしき杭が握られている。

「そこの人達、依頼を手伝ってくれるのはありがたいけどぶっちゃけ邪魔なんで、あー、やっぱありがたさすら無いから早く帰れ」
「待て待て、こいつに一発打ち込んでやるからよ…」

ニッズさんの辛辣な忠告を無視して、森の中に似合わぬ大分派手な服装をした獣人達は杭を構える。
触れると噛まれるらしくぎりぎり殻に触れないようにして蟲の中心辺りに、思い切りハンマーが振り下ろされた。

ばきっ、と金属的な何かが砕ける耳障りな音。杭によって蟲の殻は呆気なく砕けてしまった。中身の灰色が見て取れる。

「ははは、簡単じゃねぇか」

何がそこまで可笑しいのかと思えるくらいに獣人達は大声で笑う。殻を砕かれた蟲はぴくりとも動かない。

「ぜんっぜんラクショーじゃね」

獣人の内一人の腹の服が切り裂かれた。ついでに足元の蟲も居なくなっている。呆気に取られたような表情、腹にじわじわと赤い一本線が描かれていく。勿論血液によって。

細かな羽音。注意深く獣人達の周りを見渡す。殻を砕かれた筈の蟲に羽があった。それも精一杯羽ばたかせている。

「うわぁぁぁっ!?痛ぇっ!」

漸く痛みが来たのか叫びながらその場に踞る。驚きの声が大分大きくなっていて。
蟲の両脇に何故か刃が突き出ている。片面に付着していた血が、一滴落ちて地面に赤い染みを作った。

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あきゅろす。
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