小競り合いで力を見た
「………♪〜」
「……………」
明らかに上機嫌な様子で自分を撫で回しているヤクトさん。長めの毛が当たって違った気持ち良さが伝わる。
「ああ、新入り君が俺より可愛がられてるなんて、結局世の中顔ですかそうですか」
「お前は可愛がる気になれねぇ。寧ろ鞭を飛ばした方がお前の為だと思ってるんだがな……」
「いきなりそういう事言うとか。因みに棍棒振り回してる姿はアホにしか見えないんだけど」
言動も性格もますます似ている。ニッズさんとは上手くやれば仲良くなれそうだ。
「案外何処を殴るか気遣ってるんだが?下手したら頭を砕いちゃうんでな、お前だって力馬鹿だろうが」
「力持ちで良いだろ、そこは。確かに称賛している点は認めてやるけど」
「済まないな言葉が足りなかった『俺には劣るけどな、確かめても良いぞ』」
「ああ、解った、上等だやってやるよ」
舌戦が暫し繰り広げられた後に自分の身体が降ろされる。何が起こるか解らず取り敢えず座り直してコーヒーを啜る。
二人が向かい合う形で座り、お互いの腕をテーブルに肘を着ける形で前に差し出している。そのまま両方の手ががっちりと握られて。
「誰か合図を頼む」
「……それじゃあ、レディー、ゴーッ!」
ロッシュの掛け声と共に、
「ぬぅぅぅっ……!」
「ぐぅぅぅっ……!」
つまりは腕相撲。お互いの腕が細かく震えていて相当な力が込められているのが解る。
ニッズさんは歯を食い縛って、ヤクトさんに至っては完全に牙を剥いている。
「…どっちが勝つんだろうな、この試合………」
「ヤクトが三勝分勝ってた筈だし、ニッズも強くなってるだろうから……どうだろうな」
「…サイ、心配する必要はありませんよ」
勝負を見守っていると再びエンフィさんに抱き上げられる。既に自分の触り心地が気に入ったらしい。
「お互いを尊重しているからこそ、あんなじゃれあいが出来ていますから」
「そうなん…ですか………」「それに今までも約六割七分程の確率で」
みしりと何かが軋みを上げる音が耳に、
「うぉっ!?」「あ……」
もう一度軋みが聞こえた直後に、体勢を崩したヤクトさんとニッズさんがお互いの頭と頭をぶつけ、項垂れていた。
「あんな風にテーブルを壊して引き分けになりますから」
ロッシュの方を見てみるとまたか、と言いたげな表情を浮かべていた。
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