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涼やかな女声に追憶が
腰と背中に針を数本刺された状態だとしても依頼の無い日ならば特に支障は無い。また一つ経験を得た。
痛みを感じない上にじわじわと癒されて行く感触が確かに伝わってくる。針の効果は偉大だ。問題と言えば針が服に引っ掛かって臍が見えているくらいだろう。

「エロいな」
「エロいね」
「エロいねー」
「自分で言うのも何だが、エロいな…」
「……………」

万が一転んでしまったら内蔵に届くかもしれないので無言のまま臍を極力見せないように。
夕食時には針もちゃんと抜いてくれて、そのまま無事に一日が終了した。



がらんがらんがらん。
「お……朝っぱらから何だ…?」

ドミナーさん特製、トーストのような柔らかな匂いに黒胡椒と砂糖を混ぜたような甘辛い味のするドリンクにクグニエさんが妙な表情を浮かべたのを見ている時。
依頼人が来たのを告げる鐘の音が響いた。ドミナーさんが腰を上げて応対室へ、その隙を逃さずに皆がドミナーさんのジョッキにドリンクを全部流し込んだ。

「捨てると針が来るんだからな…」
『ようこそいらっしゃい。依頼の内容は?』
『……依頼ではなくて、教えて貰いたい事がある………』
「お、女の声か。面倒くさい依頼が来なけりゃ良いんだがな……」

シフカさんが呟いた、それ以前に先程の声は聞き覚えがある。確か、以前自分が白狼人に捕まった時に。

『ああ、相談料も幾らか取るが、それでも良いんなら聞くが?』
『…………この便利屋から少し離れた場所に、数種類の血で描かれた魔法陣の後があった。描いた人物が使用して月を落としたかもしれない。何か覚えがあるか……?』
「……………」
「………………」

エイサスさんが気付いたような目で自分を見る。一旦頷き、先程の声にも聞き覚えがあったので思い返してみる。
美しい金髪をした、あの彼女の声だ。しかも色々と感付かれた。

『……済まないが、何も知らないな。だが相談料は払ってくれ』
『金額は?』
『適当で良い』

ちゃりんちゃりーん、と硬貨の落ちる音。案外奮発してくれたらしい。
鐘の音が再度響いて二人は去っていった。同時にエイサスさんが地面を滑り近寄ってきた。

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あきゅろす。
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