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不純抜きの成功と浮遊
それからは実に定型的な生活パターンとなった。月の御利益なのかどうかは全くもって知らない。
自分はマフラーを編む。イセラさんの部屋でも食後の暇な時間も。時々の依頼にはしっかりとマスクを被って出陣。時たま自分が発砲したりする以外は何もせず。
二週間半程過ぎると、マフラーは殆ど完成していた。

「手触りは良いけど、何の魔法陣?」
「秘密ということで……」

マフラー上に描かれた縦長の陣もあと少しで完成する。構想通りにすんなりと出来上がっていく。

明日、マフラーが完成した。

「綺麗なもんだな……」

全体を眺めて歪みがないか確認していると、イセラさんも興味深そうに覗き込んできて。もう一つ造らなければならないものがある。
手に入れた『月』を使用出来るようにするために幾らか保存管を弄って、自分は完全に月を手に収めた。準備完了。試運転までイセラさんの部屋で済ませてみよう。



「……………」

『月』の入った保存管を片端に繋げたマフラーを首に巻き付ける。些かひんやりとした感覚に少し身震いして。
以前使っていた捕集器と手筈は大体同じ。勝手が良いように『月』入りの保存管にスイッチを設けた。かちり、と保存管自体の上部を捻る。するとマフラーが淡い光を帯び出した。

「……………」

一旦息を深く吸って心を落ち着ける。室内を緩く照らす光は月光そのもの、幻想的とすら思い浮かべる。
垂れ下がっていたマフラーの両端が持ち上がり出した。全体に魔力が回った証拠だ。軽く足を踏み込み、その場で小さく跳ねる。視界が揺れて、落ちない。足を動かしてみても、床の感触が無い。

「……………」

自分は浮いている。ゆっくりとした動きで前に進んでみる。何の抵抗も無く壁に伸ばした手を着く事が出来た。
次は後ろに下がる。若干の予測を付け、背中に壁をぴったりとつけられた。
部屋の中央へ、右、左、上昇、下降、右回転、左回転。全て上手くいった。速度こそ無いものの上出来だ。

「……………」

再びゆっくりと床に足を着け、捻ってスイッチを切る。マフラーの光が失われ、ありきたりな手編みのマフラーに。
するりと首から外し、丁寧に畳んで適当な場所に置いた。
室内まで巻いていたならば、単におかしく思われる。

【第十一巻 終】

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あきゅろす。
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