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中断無しの帰宅と編物
「サイ」
「何ですか…?」
「正直あの団体どう思ったよ?」
「……………」

自分はただ見ているだけで依頼は完了した。何かやろうとする前に、皆が一斉に動き、そのまま終えてしまったために。
紫色のバケツのような被り物を身に着けた集団が殴り飛ばされ気を失うその時まで延々唱えていた呪詛の言葉だけが嫌に耳に残っている。挙げ句の果てには「悪払い粉」とか呼ばれていた黄緑色の粉を掛けられた上に「絶対魔邪陰退散破壊羅蘿邏神木」なるものを必死で左右に振っていた。普通にイセラさんの蹴りで倒れたが。
彼処まで異様だったとは。

「案外珍しいものを見れました」
「そうか、それは良かったなっ」
「良かったんでしょうか…」
「さぁ…まあ珍しいもの見れた事は、文字通り貴重な事だからなっ」

言っている意味は同じだが、何となく伝えたい事を理解。月を手中に納めるとき等の光景は、長い間思い出になるだろう。

「……サイ?」

再びイセラさんが尋ねてきた。

「…何ですか?」
「何でマフラー編んでるんだ?」
「…試したい事がありまして」

答えながらも編み棒を動かす手は止めない。わざわざ他人の金で取り寄せた、魔力伝達効率が最大の糸をしっかりと編み上げていく。
大体三分の一ほどは出来上がったか。緑青色を基調に、黒色で魔法陣を編み描く作業。本屋の立ち読みで得た知識だが、中々暇を潰せる。

「サイ、まさかさ、僕等の血を固めて魔石を作ったとかじゃないよね……」
「いえ、しっかりと使わせて貰いました…今更ですが血液の提供、どうもありがとうございました」

立ち上がって軽く頭を下げても編み棒を動かす手は止めず。無意識のままで止めてしまうと、どれだけ縫い目を作ったか解らなくなる。

「防御用の魔法か?つーか魔法陣作れるとか…すげぇな……」
「シフカが単に出来なさすぎるだけだろ、俺もそれなりのは出来るぞ」
「俺も」
「僕も」
「俺も」
「………じゃあ、サイがどんな魔法を作ってるのか教えてみろよ?」

「…………」
「…………」
「…………」

自分の作る魔法陣はどんな効果か全く解らぬ、と以前から言われていた。
悪魔相手でも変わらないのか。

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あきゅろす。
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