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間髪抜きの想像と日常
自分の手の中には保存菅、保存菅の中には人工の月。覗き穴を開いてみると、その淡く薄い光が自分を照らす。

「……浮かんでた時より、綺麗に見える」
「………確かに……」

無理矢理の圧縮が項を奏したのだろうか、あの疎らで雑味を帯びた表面の模様は見事に塞がっていて、滑らかな表面となり唯の綺麗な珠が中で輝いていた。
月とは言い難い。しかしこれは使える。町など軽く消し飛ばす程の魔力の塊。重さもそれ程でも無く。

「……トキザ、ありがとう。君が居なかったら考えが無駄になっていた」
「サイ、こちらこそ感謝。ワクワク感溢れる面白い物見させて貰ったよ…」

トキザは満足したかのような笑みを浮かべて、ふらりとこちらに背を向ける。

「じゃあもう行くね。世の中をより良くするために色々やってるから、また会えたなら」
「解った、それじゃあまた……」

若干胡散臭さの漂うなと思いながらトキザが手を振り、三段跳びの要領で高く飛んでいったのを見えなくなるまで見送って。

「……………」

月。高出力の魔力の塊。しっかりとしたイメージが沸き上がってきた。
自分は大分欲しがり屋か羨ましがりなのかもしれない。何にせよ浮かんだからには造り上げたいものだ。




「サイ」
「何ですか?」
「お前が血を欲しがってた翌日にな、やけに夜なのに明るかった時があったんだよ…」
「そんな日もありますよ」
「いや少し言い方が悪かったな、何分かひどく明るい時があった……」
「そんな日もありますよ」
「そうかぁ…じゃあこの見出しは?」

シフカさんに突き付けられたのは、数日前の新聞記事。ちょうどあの日の物。見出しは『月が消失した?「滑るように落ちていったのを確認」』。
以前目を通したがシフカさんが見て欲しいのは『専門家の話によると、墜落ポイントは──辺りだろう』の部分。丁度この国のこの街が含まれた付近が記されている。

「お前か?」
「僕が月をどこに隠していると言うんですか?」
「…………ベッドの下とかに」
「そうだったら流石に俺でも気付くぞ?」
「……………」

イセラさんに指摘されシフカさんは黙る。自分は月ではなく、珠を持っているから心配はない筈だ。

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