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重力無しの飛行と描写
からトキザは随分と皆を先導したり笑わせたりと、所謂ムードメーカーで。自分は今よりも読書に凝っていて。

「……昔もこんな感じな時があったよね。えぐみがあったけど甘い木の実があるから、って誘って」
「その実に微量の酒気が入ってたから、結局僕は三粒しか食べなくて」
「その日の夜は随分とスッキリ眠れた。良い夢も悪い夢も見ないまま……」

早歩きのような飛んでいる事が実感出来ないような速さで自分はトキザに引かれている。宗教勧誘、ごろつき、窓が割られた民家、誰も気付いてはいないようだ。
町外れに近付いてるからか、飛行速度が段々上がる。周りは誰も見ていない上、立ち並ぶ民家等が線状にしか見えない。だが不思議と風は全く感じなかった。

「それじゃあ、行きますかっと!」
「ん…………」

思いきりトキザが踏み込んだのが見え、次には自分とトキザは明らかに飛んでいた。『跳んだ』のかもしれないが。
自分達は空中に物を投げた時の放物線よりも緩く曲線を描いているようだ。多分『飛んだ』と言っても構わない。
時間は夕暮れ、西日が差し込んであんな街中でも橙色に照らしていた。それが見えなくなる。ほぼ同時に地に足の着いた感触。

「この辺なら平坦で良い感じじゃない?月も見事に見えるしさ…」

トキザの両手が指差す先には月が二つ。遠くて淡い登りかけと、近くて雑な人工物。
ついでに少し先には、何らかの建造物があった。とある便利屋で、名前を『ThreeーStarーStag』という。

「………………」
「…随分鉄臭いインクだけどさ、いやあくまでね?ひょっとしたらこれ『血液』って言う奴じゃ」
「トキザ」
「?」
「大当たりだ」

無言で瓶の蓋を閉じた後、そっと後ろを向いて月に視線を。自分も刷毛を進める手を止めない。
口を開けた保存管を中心に置き、周りをクグニエさんの血液で囲むように描く。そのまま使い切るまで中心部を丁寧に。
結局一番量が多いドミナーさんの血で周りを大きくもう一周。空けた箇所をエイサスさんの血で大きい部分、イセラさんの血で丁寧に細部を描いていく。

「出来た……」
「わぁ、予想以上に生臭くてすごいっ!」

トキザの拍手と共に、昇った月が魔法陣を照らしていた。

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あきゅろす。
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