危険があるから安全を知る
後ろから誰かに引っ張られて、背中が地面に打ち付けられた。
ぎゃああああっ!
苦痛を感じてるような叫び声。
顔に生温い液体が跳ねる。何かなと思って拭ってみれば、鉄臭さが鼻につく紫色。
腰を起こしてのたうつ魔物を見る。右に三つ、左に四つ、合計七つの眼。
……七つ?
八つだったじゃないか。眼にゴミでも入ったのだろうか。
……きゅああああっ!
と、魔物を赤い雷が覆って、見事な電飾のように。口と眼から何か液と煙が出て、がくがく震え始めて、
きゅ……あ…がっ……
雷がおさまった後は、炭になりかけの肉塊が転がっていた。
「サイ君は頭以外はスッカスカだから、お気に召さないだろうなぁ…」
近付いて魔物の眼に刺さっていた小刀を引き抜いて
ラーツがまた自分をからかう。
確かに身体はスカスカだよ、でも頭はたっぷり詰まっているから美味しいと思う……
いや、人間自体の味が不味いに違いない。「……助けてくれてどうも。」
後頭部を掻いてラーツの方を見る。
「…俺がいなかったら、サイ君死んでたね。」
普通に魔物に喰われて。炭になりかけた肉塊から目に染みる匂いが漂い出す。
「…危なかった」
魔物の下敷きになってしまった人は見当たらない。ポカンとした顔で此方を見ているか、痛みで悶えているか。
この先どうするべきか。アーツも憧れる憲兵に連絡は既にしてある筈だから、
もうじき来るだろう。無論自分達は調書を取られる。夕食の時間が遅くなる。
ラーツは一躍ヒーロー扱いされ、例によって自分は一時的に大親友となって称賛する。
……自分は得る物の無い、単なるラーツの引き立て役みたいなものだ。
「よいしょ。」
ラーツが自分の両脇に腕を差し込み、中途半端に持ち上げた。
「……この貸しは徹底的に憲兵に調書上で君に胡麻擦って返す。若しくは踏み倒す。」
「…期待しとくよ。」
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