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脱走者は騒ぎ始めて
不思議と目が早く覚めた、訳でもない。点呼まであと十七、八分前。身を起こして軽く伸びをする。
手錠で少し手こずりながらトイレを済ませて手を洗い、何をしようかなと思う。点呼まであと十一分。

「…………」

ふと考えが浮かんだ。魔法陣を描く。最後に自分の作った魔法を残して、ラーツにありったけ使って貰おう。
ラーツは助かる、自分はいなくなる、あの金髪の女性は約束を守る筈。
寝起きにしてははっきりした頭のまま、ベッド下から紙と鉛筆とを引っ張り出す。
点呼まであと七分半。外形を素早く、そしてどんな魔法が良いか…………点呼二分前。



鍵が開けられ、自分達は扉の前に立たされる。それを看守が確認して、それで終わり。
室内から抜け出せる手段だが、周りに例の警棒と銃とを持った看守が数人囲っている。
「……死にたくないし、早く抜け出したいんですよ」
「…私語をするなっ!」

看守の犬人が鹿人に殴り掛かって、呆気なく避けられる。ナナカギさんはどう逃げ出すのか、

かち、と固いものが床に落ちるような音がした。同時に金属を無理矢理引きちぎるような、そしてぶつんと千切れたような音。

「な……」
ナナカギさんの両隣の竜人、熊人のバングルが割られて床に落ちていて、手錠は千切られていて、
呆気に取られた看守の首筋に、竜人によって四本の赤い線が深く引かれた。

「………動くなっ」

周りの看守達は警棒のスイッチを入れてその二人を威嚇する、しかし熊人が何か詠唱を早口で済ませ、

黒い槍がその看守達全員の胸と頭に刺さった。

「……ふふ…ふ……ヒャーッハーッ!」

一人の猫人がハイになって跳び跳ね、首を斬られた看守から鍵束を奪った。

そして死刑囚が自由になっていく。ナナカギさんとやら、話しかけてきた狼人、自分も。

「……さて、自由を勝ち取るのです。予定通りに………」
全員がどこかに動いた。
非常事態だとは知らされたようで、天井の赤色灯が回っている。

そんな中で自分は今まで繋げられていた腕を軽く振り、
魔法陣の続きを描くために部屋へと戻った。
朝食が無くなったのが少し悔やまれる。

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あきゅろす。
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