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一人者は虚しくて
そんなこんなで運動時間は過ぎ去り。暫くの間自由時間というか、暇な時間である。
暇を潰す目的として、早速ベッドの下から鉛筆と紙とを取り出す。テーブルは無いので、床に寝転んだまま魔法陣を描く。

「…………」

手錠で両手が同時に動かざるを得なくなり、少々難儀したがその内慣れてしまった。
でも鎖と輪っかとが触れ合う音は少々耳障りだ。

どうせこの後は夕食なのだからじっくり丁寧に描こう。しかし自分に残された時間はあとどのくらいだろうか。
少なくとも千人以上の人間が炭になっている事を考えれば、ここに三百年程閉じ込められたままでもおかしくはない。
極刑で当然。しかし自分は無実だ。問題はそれをどう証明するかだ。
赤毛さんは所在不明で、この時点で大分証明が難しくなる。
赤毛さんこそあの集団を炭にした張本人だから。悪魔は裁けるのだろうか、首を吊られても平然と鼻唄を歌いそうだ。
しかし以前虫を裁判にかけたことがあったのだから十二分にありうる……

「…………」

大体の外形が出来上がり、本格的な描き上げに取り掛かる。明らかに描く速度が早くなっている。数少ない暇潰しなのに。
一旦中断。まずは看守にうるさがられるまで扉を叩こうか。
ふと考えてみただけだ。身を起こして数冊横倒しになっている本の一冊に手を伸ばす。

………三部作らしき連作の内、第二部と書かれている。
背に腹は代えられない、とりあえずは読んでみようと、あらすじに目を通して。
……何だ、官能小説か。


食事の乗ったトレーが無愛想に室内に差し出された。本は案外字が小さくぎっちりと詰まっていて読み応えがある。
良い時間潰しなので敢えて文句は言うまい。
今開いている本のページを覚えて閉じて、食事に取り掛かる。

「…………」

底の広い食器に入れられたそれは量が多い。獣人に考慮しての事か。
匙で掬い取り、口に含んでみる。味に関しては可もなく不可もなく。

「……げふ」

しかし量が多くて、それでも残さず食べた。結果、暫く寝転んだまま動けなくなった。

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