想定外だから呆気に取られる
「さらに貴方は……………」「…………」
『ありがたい忠告』は実に長く辛辣で、自分の精神面にドスドス突き刺さっていとも簡単に落ちる。
自分の非力さを客観的に述べられ、改めてこの先生の観察眼に感心した。
生活態度には特に問題は無いらしいが、友達の少なさを心配される。
元々自分は自分から行動は起こさない。成り行きに身を任せ、今までこなしてきた。
それに人は簡単に変わるものではない。
もし変わったとしても、その変わり方は実に微々たる物である。
それは解っている。しかし自分は変わろうとしない。変わることが出来ない。
剣も魔法も使えない。
あるのはただ頭脳だけ。
自分と同じような人で成功した人は何人もいる。
しかし『ここ』にはそんな人はいない。
自分の不甲斐なさに少し嫌悪感を覚えて──
「……まあ、人生何があるのかは全く読めないものですから。
私なんか三年前までは娼館で娼夫やってましたからね。
その時は自分が教師になるなんて思いもしませんでしたよ。」
「……へぇ…」
改めて獅子人を見直してみる。
堅物そうな眼鏡をかけた顔。
綺麗に整えられた鬣。
見事に着こなされたスーツ。
小脇に抱えられた書類。
どこからどう見ても、『真面目な教師』に見える。
「……嘘ですよね?」
「いいえ、本当の話です。ちなみに働いていた娼館はまだありますよ。」
「……ふーん…」
さらりと言ってのけた獅子人は、一息ついてから再び自分に向かって話し出す。
「未来で何が起きるのか分かる人は、滅多にいません。いたとしても精々数秒先がやっとです。
つまり貴方に明日とんでもないことが起こるのか、平凡な一日なのかは分かりません。
でも私達は対処できる範囲ならば未来に対応することが出来ます。
雨が降るなら傘を持っていけばいいですし、喉が乾くなら飲み物を持てばいい。
ですから貴方は気に病む必要はありません。自分のやりたいように頑張れば良いのですよ。」
「……はい」
とりあえず肯定的な返事をした。
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