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来訪者が急に来て
無駄な事には時間を費やしてはならないが、それが無駄かどうかは張本人が決める。

先程自分が作り上げたのは、実際に便利な物かどうかは分からないが。

赤毛さんから貰った三本の牙に穴を空け、紐を通した単純な腕輪。
試しに牙をそれぞれ指の間で挟み込んで、メリケンサックのように案山子を殴ってみた。間の抜けた音に、少し牙が刺さる感触。
急に案山子の温度が上がったりはしなかった。胸の部分が段々とどす黒くなっていく。そこに触れてみても特に熱くは無い。

「……………」

案山子型の炭が出来上がった。未だ所長達は帰ってきていないが、後が怖いので倉庫の最奥に押し込んだ。



「明日帰ってくるだろうってさ…張り切って料理を作らなきゃね〜♪」
「所長はどんな食べ物が好きなんですか?」
「んーとね、煮込んだ料理かな?簡単に噛み切れるからって」

何時もとは少し違い、黒いパンツ一丁のフーガさんの作業を見ながら本を読む。
レザラクさんが「逆に凄ぇ」と太鼓判を押したくらいに出来の悪い小説だ。誤字脱字は当たり前。
ストーリー中には矛盾が溢れかえり、前書きから著者の日常の体験談が載っている。
レザラクさんの怒りを表すように表紙に拳の跡が残され、ページ全体が歪んでいた。何処まで怒っていたのだろう。

ごつ、ごつ。

推定300ページにも関わらず物語の第22章を読んでいる途中に、ノックの音が響いた。

「……どうぞー。あっと、ちょっと待ってて下さいっ」

どたばたとフーガさんが騒がしい。確かに服を着ないまま応対したら大変な事になるけども。
仕方ないので自分が応える。扉に手をかけ、ゆっくり開ければ視界が濃い蒼色に染まった。

「…………」
「たいちょー、下、下」

たたらを踏んで持ち直し、目の前の蒼蜥蜴人を見上げる。憲兵だ。取り巻きの人達も皆憲兵服を身に付けている。

「……憲兵達が、此所にどういった用件で来たんですか…?」
「……それは、な…」

良く見てみれば知った顔ばかりだ。
目の前の蒼蜥蜴人と金髪の人間女性以外、
船上で自分の頬をつついた猫人に、シューゴを捕まえた際に居合わせた黒豹人の女性。何より昨日会った白狼人。
自分は皆知っていた。

[ネクスト#]

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あきゅろす。
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