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種族的妄想から再遭遇
「っぐぁぁぁ……これ肉とか噛み切れるかなぁ…?」

口を押さえて悶える赤毛さんを見ながら、手元の布をそっと解く。
血が滲んだ布に黒々とした牙が鈍く輝いており、それを確認して布を巻き直して。

「……確かに頂きました」
「あぁどうもっと……」
「………助けて頂き、ありがとうございます…」
「あぁ、どうも…何っ……!」

軽く聞き流そうと思っていたのだろうか、しかし例を言われるのは想定外だったようで、動きがぴたりと止まって。

「……あの猫人から頼まれたのじゃなくて?」
「僕個人の意思からのお礼ですが」
「…………くくっ」

と、急にそっぽを向いて自分に顔が見えないように。肩を震わせている所からすると、きっと笑いを堪えている。


「……こっちあんま見んなよ…笑い我慢出来なくなるっ……へへへ…お前結構顔立ちが可愛いし…飼いたいな…延々抱いてさ…」
「素直にお断りしますけれども……」
「だろうな…余程のアレじゃなきゃ進んで首輪に繋がれないしな……俺悪魔だから……無理矢理でも良いか…?…」
「…………」

人と悪魔は相容れない。改めて認識して、ゆっくりと摺り足で赤毛さんから離れる。音を立てないように、背中を見せないようにして。

「……んじゃーねっ。今度会ったら負かして少なくとも五日分は……クククッ…」

そうして真っ赤な翼を広げ、霧もすっかり晴れた空に向かって飛んだ。

自分は赤毛さんが十分離れた事を確認し、全力でその場から走って。
駅前まで辿り着き、息を整えているとホームの影に怪しげな物体があった。

問題はそれを、自分は一度見ているという事だ。

「…………」

あのヤクトさんと泊まった部屋の風呂場で、自分にあれこれやった粘っこい黒色だ。
しかも自分を見付けたようで、蛞蝓か蝸牛のようにゆっくりと這いずり近寄ってくる。

「…………」

ふと気になったのは、赤毛さんから貰った抜きたての黒い牙。

物は試しだ。その内一本を手に取り、
鋭い先端を、思いきり黒色に突き立てた。

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あきゅろす。
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