一暫くの平穏から出会い
大木の影は少し涼し過ぎる。程良く風も吹いているから、小川の流れや泳いでいる魚を見て暇を潰す事にする。
元気よく泳いでいる。時々小魚が水面から遊んでいるように跳ね上がっている。
川底まで良く見える、とても澄んだ水だ。底を数匹の蟹が忙しなく動き回っている。沈んだ魚の死骸か、何か他の肉を小さな鋏を使って千切り、口へと運んでいる。
「…………」
袖を捲って、そっと川に手を沈めた。冷たい、周りの魚も蟹も一斉に自分の手から逃げ出す。
水深は以外と浅くそれには簡単に手が届いた。予想以上に、それは軽かった。
「…………」
若干黄ばんだ白色。無数のパーツが組み合わさって出来ているその形状。
見覚えはある。でも図鑑の中だったり複製品だったりで、本物を見るのはあまり無い。
それは人の骨だった。誰かの、恐らく今は死人の腕の骨だ。蟹が群がっていたのは未だ残っていた間接の部分。
「…………」
長さは自分よりも短く、大きさも同様にして小さい。自分より小さい成人がいるとは考え難い。
つまり、まだ子供の骨だ。
「…………」
無言でその骨を川に投げ入れる。波紋が水面に幾重も出来て消えて、飛沫が小さく上がり、再び川底に沈んで。
それを落ち着くまで物陰で待っていた蟹がまた骨に群がり出す。同じ様に間接を削り始める。
「……君、こんな所で何をやっているんだい?」
ちらりと視線をやってみたらフードもローブも着けている人だ。
「ただ、この川を見てるだけです…」
「そうだな……こんな川は見るだけの価値がある……」
自分の隣に並び、フードの人は川を見る。跳ねる小魚を、綺麗な流れを。きっと骨は見ていないか気付かない。
「……私は、こんな景色の中で悠々と過ごしていたいんだ…」
「…………」
「誰もがこんな場所で、何の恐ろしい事も考えず……ああ、行かなければな…」
そしてゆっくりと、フードの人は協会に向かって歩き出す。
自分は小さくサヨナラ、とその背中に呟いた。聞こえないように言ったので、何の恐ろしい事も考えずに協会に入っていった。
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