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恋人未満3




私と忍足くんが隣同士になったのは2回目で、はじめの忍足くんは完全に作り笑顔だったことをはっきり覚えてる。わざわざ作るくらいなら話し掛けなきゃいいのに、って思った。
でもだんだんと話すようになって、忍足くんが本当に笑ってくれるようになって、その時から恋をした。あの時忍足くんが私に笑いかけたりしなければこんなに苦しい気持ちにはならなかったかもしれないのに。たまたま通り掛かったテニスコートから見えた忍足くんが私に手を振ってくれたりしなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに。
だけど、なってしまった。



「付き合いたくはない…」

「せやろな…ごめんな、辛い思いさして。俺がおんなじ立場やったらやっぱ嫌やわ。」

「でも…好き」

「…俺もや。初め隣の席になった時から、名前が笑いかけてくれた時から好きや。」

「ありがと…」

ぎゅ、と忍足の腕に力が篭った。なんだか心を締め付けられた気がして、痛い。

「別にあの女が好きやったわけやないねん。あの女が前々からしつこくて、一回抱いたら諦める言うたから…やってしもた。」

「……。」

「あんまりくっついてたら名前に誤解される思てん」

「……。」

「名前、キスしたい」
「……だ…!」
「駄目?」

この男は急に何を言い出すんだ。駄目って言おうと思ってたのに…そんな目で見ないでよ。
顔を上げたせいで目の前にある忍足くんの目は真剣で、怖くて視線をそらしたくなる。

「名前は大切やから、取って食ったりせえへんよ」
「で、でも…」
「1回だけ」

忍足くんの私を抱きしめている腕にさらに力が入った。


「1回したら、明日から元通りや」


そう言って、忍足くんは問答無用で顔を近付けてきた。前に伊達だと言っていた眼鏡の冷たいレンズが少し当たる。生暖かい吐息がやけにリアルに感じて、唇が重なった。私の、ファーストキス。


「……今日、送るわ」
「で、でも部活…」
「どうせ遅刻や」


忍足くんは床に置いてあった自分の鞄と私のカバンを手に取って、片方を私に渡した。


「行こか」
「うん…」






*** ***




「おはようさん」
「あ、おお忍足くん…っ」

次の日学校に行くと、忍足くんは昨日の朝と同じようなテンションであいさつしてきた。私は私でまた昨日と同じような返し方。

「はよー、忍足、苗字」

後ろから佐藤があいさつをしてきて、忍足くんはまた私と同じようにあいさつを返す。

「なんだお前ら付き合うわけ?」
「人の傷口えぐらんといて。昨日フラれたわ。」
「マジかよ。忍足ザマーミロだな。」
「あほ、友達以上恋人未満に成長したから十分や。」
「意味分かんね」

佐藤はそれだけ言うと、私の前の席にどかっと座った。



「な?」

「そ、だね」
「ところで俺、まだあいさつしてもらってへんのやけど」

「おはよう!」
「遅いわ」

そう言って笑いあった私たちは、きっと卒業までこのままだけど、それでもいいかな、なんて思った。






恋人未満
(同窓会覚えとけよ)
(……やだ)










あとがき

佐藤くんは私の小説のレギュラーゲストなので立海にも存在します。そしてつねにサッカー部です。忍足には同じクラスのR陣がいないので…。


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あきゅろす。
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