恋人未満(忍足)
見てしまった見てしまった見てしまった。彼、なんとなくこういうことしそうなイメージはあったけどまさか私が目撃することになるなんて!ああ、神様なんてはこの世に居ないのね。こんなシーンを目撃して固まる私と彼、今ばっちり目が合ってる。
私彼のこと、ちょっとだけ好きだったのに。
「おはようさん」
びくり、身体が震えた。昨日あんなことがあったすぐ後なのに彼は何ごともなかったかのように…というよりはむしろ、してましたけどなにか?みたいな態度で隣の席である私に話し掛けてきている。
よし!ここは私も彼にならって、見ちゃっいましたけどなにか?って感じでナチュラルに応戦よ!ハイさんにーいち!
「おおおし忍足くんおおはおは…おはもう!」
噛んだ!噛んじゃった!てか何!おはもうって一体何!?ああもう忍足くんそんなに笑わないで!どうせ私には到底ムリなことでした!「アカン…腹よじれる」って私はこれでも精一杯なんだからあああ恥ずかしい!超恥ずかしい!誰かここに特大サイズの穴を掘って、お願いだから早く!急げ!
「そんな動揺せんでもええやんか。苗字ちゃんかわええなあ。」
「だだだって!だって…!教室であんな…あんなこと…誰でも動揺するよ!」
「そこまではせえへんよ。ええやん、机上でセックスしたって。」
「言わないでええぇぇええ!!」
そんな恥ずかしい単語を女子の前で軽々しく発するなんて何考えてるの!なんて言ったら忍足くんはまたお腹を抱えて笑い出した。
「今時そんなこと言う子珍しすぎるわ…!」
「うううるさい!」
「めっちゃ可愛え」
「もっとうるさい!」
「今日俺とせえへん?」
「きゃあああぁぁ!」
びっくりして叫んじゃった私に、すぐ前に座っていた男子が鼓膜破れるから黙れと言ってきた。佐藤…覚えていやがれ…!
それにしても忍足くん、私の前で1度も下の話なんてしたこと無かったから、イロイロ噂は聞いていたけどあくまでただの噂だと思ってたのに。はぁ、ダメージでかいなあ。大きなため息をついて、朝のホームルームが始まって静かになった忍足くんの横顔をちらりと見た。
綺麗な横顔、強いまなざし、綺麗な首、鎖骨、肩、腕、
綺麗な指先…
あぁ、嫌なもの見ちゃった。
またもうひとつため息をつくと、今度は忍足くんに気が付かれてしまった。見てたこと、バレちゃったかな。
「苗字ちゃん目つきやーらしーわあ」
忍足くんに言われたくないわ!私が反論しようとすると、忍足くんは唇に指を宛ててシー、って。たったそれだけの仕種をそこまでえろくする忍足くんの方ががやらしいっての。ていうか、見てたのバレてたっぽい…。
「えろ」
「あほ、人間の本能や」
「ばか」
「苗字ちゃんにも教えたろか?」
「…っ」
「真っ赤っか」
「変態…!」
私は机に出してあった消しゴムを忍足に向かって投げ付けた。うまいことキャッチされたせいでイライラはつのるばかり。
「………ばか…」
思わず涙が出そうになった。
やめて、やめて、今泣いたって忍足くんが困るだけなんだから。
私、いつの間にこんなに好きになってたんだろう。
いままでずっと、ちょっと好き、くらいだと思ってたのにさ。
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