シリーズ・短編
1.クリスマス(聖剣勇者)
※本編後
この時期になると押寺はすこぶる調子が良い。何度生まれ変わってもそうだ。
このクリスマスの辺りから年明けまで、祈りがよく集まるとか何とか言っていた。
現在を生きる押寺という存在は、小説を書いて生活している。若手の中でそこそこ有名で、故に出版社の年末パーティーに呼ばれていた。
上品に箔押しされた招待状は、毎回一度目を通しただけでシュレッダー行きになっていた。
一回くらい行けばいいのに、押寺は俺と会う前に行ったからもういいと言って出席を断っていた。
「もう勇と会えたんだから、勇と過ごしたいよ」
「だからってこの寒い中、散歩ってな…」
「あはは。夕飯の買い出しだよ。散歩はついでー」
「はいはいそうだな」
白い息を吐きながら二人でただ歩く。
押寺のマンションからスーパーまでは結構ある。帰りを考えると憂鬱だ。
「勇、あれ見てー」
押寺が示した先に、俺より年下らしき二人の青年が歩いていた。
見たところ、何の変哲もない。ただ連れ立って歩いているだけだ。
「あいつらがどうかしたのか?」
「初々しいなーって思ってね」
「?……ああ」
押寺の言いたいことが分かった。
二人のうちタレ目のやつの手が不自然に動いている。隣のやつがちょうどその手に気付いて、自らその手を捕まえた。
タレ目がそれに驚いて足を止めた。隣のやつは不服そうな顔をして何か言っている。
「あんな時期もあったねー」
「…そうだな」
何度生まれ変わっても、何に生まれ変わっても、俺達は出会えばその時から残りの生をともに過ごしている。それらの時間を全て合わせれば、初々しいなんて期間は遥か昔に終わっている。
「押寺」
「んー?」
「手繋ぐか」
「うん」
それでも、あの青年達のように過ごしてみたいと思う時がある。
指が触れて、掌の熱を分け合う。
たまにはこうするのもいいかもしれない。そう思って隣を歩く押寺を見ると目が合った。
「……………メリークリスマス」
「うん。メリークリスマス」
「プレゼントはこれでいいな」
「あはは。いいよー。デレをありがとうございます」
繋いだ手がより強く握られた。俺からも握り返すと、押寺は小さく笑った。
END
拍手 2011/12/23〜2012/2/15
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