シリーズ・短編 幾星霜も共に ベランダで煙草を吸っていると、下の道を中学生くらいの二人の少年が歩いていった。 「運命だねー」 いつの間にか隣に押寺(おうじ)がいた。 「また双子で生まれて、第三王子と騎士が両親。これで何回目か知ってる?」 「知らなくていいだろ」 「勇(いさむ)のそういうところも好きだよ」 煙草の始末をして一緒にリビングに行く。 押寺はテーブルに向かうと、何処からか古びた本を取り出した。本の間に挟んでいたペンを使って、何か書き込んでいく。俺はその様子をソファに座って見ていた。 勇者だった俺は、その時の記憶と人格をそのままに生まれ変わっていた。 押寺、かつての亡国の王子が勇者の運命の力を利用して、聖剣と魔剣、巻き込む形で第三王子と騎士と神官と他に何人かの魂を別の世界の輪廻に移転させたのだ。 あの世界にいたままでは、"あの世界の聖剣"と"あの世界の魔剣"という因果のせいで、争う運命を変えることが難しかったらしい。 力の源である勇者の俺と力を使う亡国の王子は、生まれ変わりこそするが、中身は勇者と亡国の王子のままだ。 「いさむー」 「ん?」 「聖剣と魔剣の宿命が消えるまで、あと何回か知ってる?」 「……知らなくていいだろ」 「勇のそういうところも好きだよ」 押寺は古びた本にペンを挟んで閉じる。そして表紙に手を置くと目を瞑って念じ始めた。 その本は、あの世界で亡国の王子が手に入れたものだそうだ。眠っていた遺跡の周りを調べて見つけたらしい。 国が滅んだのは本を手に入れた代償だったんだそうだ。「身のほど知らずの王様が世界の総てを手に入れようとした結果」、そう言っていた。 「はい。終わり。また来世もよろしくねー」 そう言って押寺は本を何処かにしまった。 「その前に今生があるだろ」 「あはは。そうだけど、一応言っておきたいのー」 押寺が隣に座るとソファが軋んだ。 「今回は二人の確認が早くできたから、のんびり歳が取れるねー」 「ああ」 「勇、こっち向いて」 「ん…」 合わさる唇。目を閉じて受け入れるとソファに押し倒された。 END . [*前へ][次へ#] [戻る] |