シリーズ・短編
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次の朝、俺は皆を集めた。
「帰るのやめる」
「それはなんと嬉しいことだ!勇者様がいてくだされば我が民も大いに喜び…」
「帰るのやめて、魔剣の欠片を探す。これ決定事項ね。聖剣の望だしあいつ連れていくから」
「…今何と?」
「国民には"聖剣様に恩返しをする"って言えばいいよ。あと、はいこれ"魔剣の欠片を集めることは国にとって有益です"って報告書。保管方法も書いてあるから頑張って読んで。今や世捨て人の大大大魔法使い様が書いたありがたいものだから、そこんとこよろしく」
「え?は?」
「旅に必要な物はこっちで勝手に揃えるから、通行手形だけちょうだい。世界全土に行けるやつね。無きゃ無いで別に関所破ってくからいいけど外聞悪いっしょ?」
「いや、あの、え?」
「と、いうわけで、何か質問は?ないなら早速支度始めたいから解散ね」
こうして俺は、第二の旅に出た。今度は俺と聖剣との行く宛の無い二人旅だ。
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世界中を巡り、時には魔王軍の残党と戦い、人助けをしたり、観光したり、短期で働いたり、一発大穴を当てて豪遊したりして、魔剣の欠片を集め切った。
世捨て人の魔法使いに紹介された鍛冶屋に頼んで、魔剣を打ち直してもらうと、魔剣も人の姿になれるようになっていた。
色白で金の髪をした聖剣と対をなすに相応しい、褐色の肌と黒い髪をした魔剣。
聖剣は魔剣にべったりで、いつも一緒にいようとする。魔剣も万更ではなさそうで、大人しく聖剣の隣にいた。
「仲睦まじくて微笑ましいねー」
休憩している花畑で戯れる二振りを眺めるのは、前の旅で仲間だった、遺跡に眠っていた古の亡国の王子だ。魔王を倒した後は国の痕跡を探しに行ったはずだが、途中で今の旅に合流してきた。
「でも、悲劇だ。聖剣と魔剣である限り、彼等は引き離されて戦う時がくる。今は、勇者の運命の力に守られているけど、君がいなくなればその時は必ずやってくる」
「うるせー。だったらどうすればよかったんだよ。……あんな廃人みたいなあいつを、放っておけるかよ」
「あはは。放っておくのが正解だったんだよ」
「……………」
聖剣が白い花で輪を作って魔剣の頭に乗せた。魔剣は花輪に触れて、頬を赤らめて微笑む。
泣きそうなほど穏やかな時間が過ぎていく。
「君は君が思ってる以上に聖剣に恩を感じてる。そして同情してるんだねー」
亡国の王子の優しい声音に、俺は彼の方を向いた。彼は真っ直ぐに俺を見ていた。
「その気持ちはどのくらい強い?命だけじゃなく、魂の行く先まで犠牲にできるくらい?」
俺は花に囲まれて笑い合う二振りを見つめた後、頷いた。
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