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小説
<4>
「ささ、どうぞ〜。俺様、今日、はりきって作っちゃった。」
 佐助は、唐草模様の風呂敷を広げながら、場を盛り上げようとはしゃぐ。
 本日の天気予報は晴れ。
 佐助の提案で、昼休みの中庭、晴天の下でご飯を食べようということになり、早起きしてお弁当を作ってきたのだ。三段重ねの重箱の中には、タコさんウインナーやら、甘めの玉子焼きやら、チューリップの鶏肉、おむすび、そして、食後のデザートにあんドーナッツまで作ってある。全部、幸村の好みの味付けになっていた。
「いっただっきまーす。」
 お弁当を覗き込んだ幸村は、どれから食べようかと目をらんらんと輝かせる。
「沢山あるから、お腹いっぱい食べてね。」
「うんっ、うまい。」
 お結びと、もう片方の手にはから揚げを持ち、口いっぱいにほおばりすぎて、幸村は案の定程なくむせる。
「ほらほら、誰も取らないから。お茶飲んで。」
 咳き込んで涙目の幸村にお茶を渡しながら、佐助は何かに気づき、ふいに声をもらした。 
「あ、あれ。政宗と元親?」
 え?と幸村は、佐助の目線の先を目で追う。
 そこには、見知った政宗と、なかなか大きい部類に入る政宗よりも格段に大きい、元親と呼ばれる彼が談笑しながら、渡り廊下を歩いていた。
「佐助、政宗どのと、友達か?」
「うん、クラスメイトだよ。あ、そうだ、せっかくたくさんあるし、ここに呼ぼうか。」
「ちょ、佐助。」
 幸村は慌てて止めようと、佐助の学生服の袖口を引っ張る。
「おーいおーい。まさむねー、もとちかーっ。」
 佐助は、そんな幸村にはお構いなしに、両手をぶんぶん振ってあちらの注意を引く。
「おー佐助。そこで何してんのお?」
 まず先に気づいた元親が、片手を上げて答える。
「なあ、一緒に食べないか?弁当っ、作りすぎたからさー。」
「ちょっ、佐助っ・・・。」
 幸村は思わず佐助の背中の後ろに隠れてしまう。
―――どんな顔して会えばいいのだ。
 政宗は、元親の横で静かに佐助とのやりとりを見ていたが、そして視線は横に流れ、すぐ傍の幸村を捉える。そして、何も気づかなかったかのごとく、ごく自然な流れで、そのままふいっと顔を背けた。
「え・・・。」
 幸村と佐助の声が、見事にハモった。
 政宗は、そのまま校舎へ戻っていってしまった。
 政宗の姿が消えてしまった渡り廊下を、幸村はそのまま見つめ続ける。その表情は重く、仄暗い空気をその身にまとっている。
「うわっうまそー。」
 気づいたら、いつまにか元親が駆け寄ってきていた。
「たくさん余ったから食べていいよ。」
「いっただっきまーす。おお、すっげえ豪勢だな。」
 元親が幸村の横にどっかりと座ると、その風圧でビニールシートがひらめいた。
「なあなあ、政宗は?」
「なんか野暮用あるみたいでよー。おっうまそうっ。この良い色に日焼けしたたこさんウインナーいっただき。」
 元親らしく豪快に手づかみでいく。
「野暮用って、何々、彼女かなんか?」
 野次馬根性丸出しで佐助は元親に探りを入れる。
「あいつ、よく昼休み、女に呼び出されているぜ。今日も手紙貰った返事じゃね?」
 彼女・・・。
 政宗が、女子と会っている姿が何故か鮮明に想像できて。
 幸村はそれを全て脳裏から消すために、かぶりをふった。
「おい、育ち盛り、ぼっとしてっと、くっちまうぞ〜。」
 元親は放心状態の幸村の肩をひじで突っつく。
「は、はあ。」
 幸村は小さく頷くと、持っていたおにぎりを無理やりぱくついて、のどに流し込む。美味しいはずのそれは、今日に限って何故か、味がしなかった


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あきゅろす。
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