[携帯モード] [URL送信]

小説
ふたりぼっち-前編-★佐幸です!ご注意。
・・・もう、君をぐしゃぐしゃにしたいよ。
全て僕のものにしてしまいたい。


 佐助はこれから行為を始める合図のように深く瞳を閉じると、至近距離で小刻みに震える濡れた唇に、自分のソレをそっと押し付けた。
幸村は受ける瞬間、緊張からか息を飲み呼吸を止める。
無抵抗で重なった唇は弾力があり、押し返される反応が楽しくて、何度も何度も、触れるだけの優しいキスを繰り返してみる。けれど、それ以上に合わさる唇が想像以上に柔らかくて、感触が羽毛のように気持ちよくて、ずっと離れたくない思いのほうが強くなっていた
軽く薄目をあけてチラ見をすると、幸村の眼を隙間無く縁取った睫毛が細かく揺れ、両頬は紅をさしたように赤みがかっている。それを脳の中枢神経で確認した途端、フレンチキスだけでは飽き足らず、そのまま幸村の肩に添えていただけの右手に力を込め、背後の壁にゆっくりと押し倒すように体重をかけた。空いていた左手で幸村の形の良い細い顎を持ち、幾分強い力で上に向かせて口を開けさせると、そのまま熱い舌を、歯列を割って忍び込ませた。
「…ンンッ。」
 穏やかで心地好い行為に慣れてきていた幸村は、不意に襲ってきた衝撃に、目を閉じたまま苦しそうに眉根を潜めた。
口内で脅えたように逃げ惑う舌を強引に絡めとり、何度も何度も執拗に擦り合わせ、そして丹念に舐め上げる。
 うまく飲み込めない唾液がスッと線を描き、幸村の健康的な小麦色の首筋に何筋も伝い落ちて濡らしていく。
 口を隙間無く塞がれているため、うまく鼻で息が出来ない幸村は、体の中が二酸化炭素でいっぱいになった気がして、重くのしかかっている佐助の胸を、拳で弱弱しく何度も叩いた。
 幸村との初めてのキスを存分に堪能した後、佐助は唇の表面を1舐めし、やっと彼の口を開放した。唇同士が離れた途端、幸村は海老のごとく体を丸め、むせた様に咳き込んだ。
 そして、酒に酔ったときみたく、トロンとした視線で仰ぎ見た佐助の顔は、自らのそれと同様、目頭が熱を持ったように潤み、朱に染まっていた。
 肺に新鮮な酸素を送り終えた幸村は、平常通りの呼吸にまで整えると、彼自身無意識に、佐助の上着の袖口にキュッと縋り付いた。
「大丈夫?旦那…。怖かったら、もう、これ以上はやめようか?」
「…大丈夫、だ。続けて、くれ。」
 途切れ途切れに幸村が答えた瞬間、タイミング良く、高い場所に備え付けてある掛け時計が時報を知らせた。その重低音の刺激にも、過敏になっている幸村はピクッと肩を上下に震わせた。
 午後五時、ジャスト。
 ここは、自分の部屋
 そろそろ母親がパートを終えてこちらへ戻ってきている頃合だ。そういえば、この寝室の鍵をロックするのを忘れていることを、佐助はトレーナーの襟元で、どちらのものか見当のつかない唾液でベタベタになった口元を拭いながら、ぼんやりと思い出した。それならば、誰かが入ってくる可能性が無きにしもあらず。
まずいかなと心の片隅で思ったけれど、目の前にある欲望には勝てなかった。
成るようになれ、かな。 
 佐助は幸村の乱れ放題の髪をすくように撫で付けながら、静かに心の内で答えを出した。
 けれど、決して投げやりや自暴自棄でそう認識したわけではない。幸村とこうしている自分は、女性を抱いていた時に感じていた興味本位やその場のなりゆきとかで、彼と体を重ねているのではないと自覚していたから。彼を大切だと思ったゆえの結果だ。
 ありのままの嘘偽りの無い自分だから、それを親がどう思おうが、罵って軽蔑されたとしても良いと考えた。悲しませてしまうことは、本心では無いにせよだ。
 幸村に今こうして触れ合っている。自らの意志でこの状況を選んだのだから。
「もう、途中で待ったなしだから。旦那がもし嫌がっても次は止めたりしない。」
 壁に手をかけて背中を屈め、幸村の耳元に顔を寄せると、低く囁く。
 ギクリと、大きく見開いた両眼に、佐助自身が薄らうつる。
 佐助は鏡に映るように見えた、その幸村に向けている自分の表情が、我ながら余裕がないと心の中で苦笑した。
 もっと優しくして、うんと気持ちよくしてあげたいと思っていたのに、いざ始めてしまうと、自分も若気の至りなのか、欲望が制御できずうまくいかない。
 今まで、どんな素敵な女性に対しても、こんな性に対して貪欲な感情にならなかった。
 それは、気持ちと行為とが比例してなかったからだろうか。
「想像していたより、平気かも。怖くなんて、ない。」
 強がりを滲ませ、幸村は、目を閉じて嘯いた。
 時に瞳は口以上にものを言う。今、それを確信してしまう。その瞼で覆い隠してしまった幸村の目は、本人は認めたくないだろうが確実に怯えを潜めている。
 これから行う行為に対して、本心では怖いくせに、根っからの負けず嫌いの彼は、口先では頑なに意地を張って見せるのだ
 佐助は、人より若干長いであろう幸村の指先を、キュッと握った。そして、そのまま引き寄せると、招くように自分の胸元へ押し当てる。
「俺も、同じだよ。こんなに…。」
 切ないほど、心臓が波打って、馬鹿みたいにドキドキいってる。
 幸村は驚いたように間近にある佐助の顔を覗き込んだ。そして、見落としそうなほど、小さく小さく微笑んで見せた。
 いつのまにか立っていた姿勢から、二人はカーペットの床に足を投げ出し、向かい合って座った状態になっていた。
「旦那。今日だけで良いから、俺だけを見ててよ。今は俺のことだけを、考えてほしい。」
 今という一瞬は、自分たちの事だけを、感じていればいい。
 明日になったら、きっといつも通りの二人に、部活中心の生活へと、何事も無かったように戻るだろうから。
 見つめ返した、その、まっすぐ佐助一人捉えて離さない芯の強い瞳は、同意する意思を伝えた。
 佐助は、幸村の無防備にさらけ出している細い首筋にチュッと音を立て、啄ばむようにキスをし、軽く跡を付けるように歯を立てた。同時に、鎖骨付近へ緩やかに指を這わせる。
 幸村は、予防注射から目を背ける子供のように、両目をギュッと閉じて耐える。首元に唇を寄せただけで、幸村は条件反射みたく、立てた両膝をビクッと震わせた。佐助は、腰が引き気味の幸村の体を手繰り寄せ、首から耳元へ線を描くように、小さく舌を出しくすぐる様に舐めた。打てば響くように、ビクンビクンと返ってくる反応が面白いので、もっと大胆な行動に出てみようと、今度はトレーナーをたくし上げて腹をむき出しにしてみる。すると、親が子供の洋服を脱がすときみたいに、幸村は素直に自ら手伝って上半身裸になった。目の前の生まれたまま彼の姿を、言葉で形容してしまえば、マネキンのように、細い体。
けれど、単に骨がましいわけでなく、スポーツ選手同様、滑らかな筋肉が要所々にきちんと備わっていた。


[*前へ][次へ#]

11/42ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!