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小説
<10>
 初めての場所は、どうしてもホテルだけは嫌だった。
 ここは、自分の部屋。政宗が帰ってこない事を良いことに、自分は何をここでしようとしているのか。
「本当にいいの?幸村。」
 慶次は、幸村の服を脱がしながら、問いかける。
これで、この辛い感情を、忘れられるなら。
別の人を、慶次を、好きになれるのなら。
「幸村。」
 眼を閉じると、何かが走馬灯のように蘇る。
 政宗と初めて会った日のことだった。
 道場に入門しようとした自分は、先に入っていた兄に連れられ、その場所に来ていた。
 たくさんいる人の中で、その人だけは別格だった。 
 どんなに人に紛れていても、自分は、彼を一瞬にして見つけることが出来る。
―――よろしく。
 防具を脱いで言った第一声は、ぶっきらぼうなその一言だけ。

 あれから、自分は、こんなにも遠くに来てしまった。

 本当は好きでいることが、辛かった。
 好きすぎて好きすぎて、辛かった。
 もう、忘れたい。
 この愛という名の呪縛から解き放たれたい。
 そう思ったのに。
「ごめんなさっ・・・。」
「幸村?」
「やっぱり、駄目だ。」
 慶次の肩を両手で突っぱねる。
「俺、やっぱり、駄目でござる。」
「幸村・・・。」
「忘れるなんて、できっこない。」
 忘れるのは、やっぱり、死ぬときだ。

 ―――次の刹那。
 こちらにまっすぐ向かってくる、ドンドンと地響きのごとく大きな足音。
「っ。」
 それに気づいた幸村は、背筋が一瞬にして凍る。


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あきゅろす。
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