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小説
<6>
 昼下がり、大学のキャンパス内にあるカフェテラス。
 そこで、つかの間の住人は、めいめいに好きな事をして過ごしている。わいわいとたわいもない談笑しているものもいたり、辞書を片手に何やらレポートを作っているものもいたり。
騒がしい中でも、政宗はその空間が好きだった。
 テーブルに置いたブラックコーヒー入りの紙コップにゆるり手を伸ばしながら、真剣な眼差しで、政宗は本をめくる。
「ようっ、相変わらず、しけた面してんな。」
 いきなり、前のめりになるほど背中を押されて。
 不意をつかれた政宗は、ホットコーヒーで舌先を火傷した。
「・・・元親か。なんか用かよ。」
「なんだ、なんだ、お前、こんなところで料理の本なんか読んでやがんのか?そんなキャラに合わないことすっと、お前のファンが泣くぞ〜。」
 後ろに隠そうとした政宗の手元を、目ざとく元親は見逃さなかった。
「うるせえ。俺の勝手だ。」
 政宗は、わざと大きな音を立ててその本を閉じると、バックの中に即座に仕舞う。
「それもこれも可愛い幸村君のためってか?お前相当の、ブラコンかあ?」
 政宗は元親を睨み付ける。黙れと、無言の圧力。
「おーこわっ。」
 全然懲りない元親は、おどけるように言いながら、政宗の向かいの椅子にどっかりと座り、政宗の飲みかけのコーヒーを横取りした。
「そういえば、その幸村が、すっげえ似合わねえ場所で目撃されてっけど。」
「お前の情報とやらは、あてになんねえからな。」
「ええ??聞きたくないの?」
 芝居じみたリアクションだ。
「どこだよ。」
 咥えたタバコに火をつけながら、政宗は気の無い風で投げやりに言う。
「それが、原宿の某ラブホ。」
「ラブホ?ば-か、天変地異が起こっても、あいつが、そんなとこ・・・。」
 と、軽口を叩きながら、思い当たる節があることを思い出し、政宗は、タバコを吸う動きを止めた。
 あの、夕べの幸村から漂った甘い、銘柄も分からない、うちのそれとは違うシャンプーの匂い。
 くゆらせた煙は、目の前を心細げに漂っている。
「政宗〜?灰が落ちてっぞ。」
 いきなり黙り込んだ政宗に、元親は表情をうかがい知ろうと覗き込む。
「相手は?」
 政宗は、目を伏せたまま、唸るように言った。
「まさか、あの堅物を絵に書いたような幸村が、そんな破廉恥な場所へいくと、政宗さんは本気で思って・・・。」
「だからっ。」
 政宗は、いきなり元親の襟首をぐっと締め上げる。
「相手が、どこのどいつか教えろっつってんだよ。」
 政宗は、友達の元親相手にすごんでいた。
 あまりの剣幕に、両手を挙げて元親はうろたえる。
「それは、前田慶次ってやつだよ。」
「まえだ・・・けいじだと?」
 口の中で、反復する。
 それは、耳覚えのある、名前だった。


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あきゅろす。
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