[携帯モード] [URL送信]

小説
プロローグ。
 そこは、シティホテルの室内。
外はまだお天道様がさんさんと昇っている時間帯で、大勢の人が街中を闊歩しているだろう。
 幸村は、仄暗い、外の騒がしさとは別世界のごとく静かな室内で、今自分が置かれている状況に対する羞恥心からか、顔を両手で隠すように覆った。
 先ほどまで見えていたものは、絵で描かれている人口の空。ただのシャンデリアが、卑猥でグロテスクなものに映っていた。
「こんなのっ、本当に役に立つのだろうか・・・。」
誰に問いかけるというでもなく、発せられた言葉。それは、狭い室内では、そばにいる人間に容易に届いていた。ビデオカメラの準備をしていた彼は、幸村の言葉に気づいて、大きなキングサイズのベッドへ横になる幸村の傍に寄ってきて。
そして、優しくあやすような仕草で、幸村の火照った頬を撫でた。発せられた声も、いつも通り穏やかなそれだ。
「もちろん、これによって、良い製品が生まれるのなら、俺は役になっていると思うし、そうであって欲しいよ。そして、幸村も何より政宗のためになれるだろ?ね、一石二鳥じゃないか。」
 政宗、という名前を聞いたところで、幸村の心はずきんと、深く鈍く痛んだ。感じた胸苦しさに、幸村は裸の胸元を押さえる。
 これは、本当に、政宗どののためになっているのだろうか?
 今の時点では、分からない。
「ほら、始めるよ。幸村。」
「あっ・・・ああっ。」
 もう、何も分からない。
 傍にいる彼が、動きを開始したからだ。
 程なくして、幸村は、欲望の海へとあっけなく投げ出された。
 そこから繋がっているはずの俺の行く末は、いったいどこだろう。
でも、わかっていることが一つある。
 そこには、自分にとって、大切なひとはいない。
 孤高の彼は、今の俺を、きっと許さない。
 許してなんて、言えない。
 言えるわけ、無い。


[次へ#]

1/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!