[携帯モード] [URL送信]

小説
ホワイトクリスマス-前編- Xmasダテサナ
「ああ、今、何時だ。」
 誰もいない、シンと水を打ったように静まり返った薄暗い室内でただ一人、パソコン画面にがっつりと集中していた政宗は、首元のネクタイを少し緩めながら、近くのデジタル時計にチラリと目を移した。
 時計の指す時刻は、只今、21時10分。
 この都心のビル内から一歩街へ踏み出でると、きっとクリスマス一色なのだろう。華やか過ぎる色とりどりのイルミネーションの洪水、そしてカップルや家族連れの笑顔が溢れているのがまざまざと目に浮かぶ。
 そう、今日はクリスマス。
 浮かれ気味の周囲に、彼は一歩線を引いて傍観者を決め込んでいた。
 大きな壁全体を切り取られているような見晴らしの良い窓からも、煌びやかな夜景が目に飛び込んでくるけれど。 
「俺とは関係ねえな。」
 自嘲気味にボソリ一人呟く。その独白も、聞こえるのは無機質な機械音だけの静かな室内に儚く消えた。
 あの運命を憎んだ日から、かれこれこの数年間、毎年自ら仕事をわざと背負い込んで、クリスマス行事から懸命に遠ざかろうとしていた。
 ―――今頃、あいつは誰かと過ごしてんだろうな。
 ぼんやりとパソコン画面に目線をやったまま、近くにあるはずの煙草の箱を手探りで取ると、中身はあと一本で、政宗はチッと忌々しげに舌打ちした。かわりに灰皿には煙草の吸殻が零れ落ちそうなほど、こんもりと山になっていて。とうとうその最後の一本に、躊躇い無くシルバーのジッポで火をつける。
 自分でもこんなのどうかしていると悟りながら、相手の誕生日、バレンタイン、そしてクリスマスの行動を逐一そっと監視するように探っていた。そして、定刻18時に鞄を抱えいそいそ帰っていく姿を見かけては、心はボロボロに打ちのめされたのだ。表情にこそ出さないが、内心はノックアウト寸前まで落ち込む。
 もういっそ、この世からクリスマスなんて無ければいいのにと、乱暴な事さえ思う。
 いったい誰が、クリスマスは大切な人とすごす日だと決めたんだよ。
 好きな相手が、そんな日を恋人と過ごしている様。
―――そんなの、想像しただけで、心がキリキリとたまらなく痛む。
それぐらい好きなのに。それぐらい大切だから。
どうせこんなの叶わぬ恋だと知っているから、今のこの関係を崩さぬよう、俺の密かな恋心は声に出す事は無く、一生黙っていようと決めていた。
―――不毛だと笑えばいい。
ずっとずっと傍で、この先輩後輩の優しい関係のまま、彼を見守っていたいのだ。
椅子の背もたれに軽く体重をかけ背筋を伸ばす感じで仰け反った政宗は、かけていた眼鏡をいったん外し、疲れきった目頭をぐっと押さえる。
空間をくゆる咥えタバコの白煙が、何故だか目にしみて、視界がぼやける。
「こんなの、報われないか。」
 なんでよりにもよって、なんであいつを好きになってしまったんだよ。
 ―――大問題は、相手も、俺も、男だということ。
こんなの、報われるわけが無い。この想いが成就するわけが無い。好きなんて告白してみろ、きっとこの関係もろともあっけ無く儚く消えて無くなる。あいつに気味悪がられて、嫌われてしまうなんて、そんなの、俺には耐え切れない。
 ―――こんな、好きなんて感情、いらねえよ。
どんなに捨て去ろうとしても、好きである気持ちは心の中から無くなってくれない。一度悪あがきか、この想いを断ち切ろうと他の女性とつきあったこともあるけれど、逆に想いはますます募り、忘れがたく、強くなるばかりで。
「ばっかじゃねえの、俺。」
 馬鹿みたいで泣けてくる。辛すぎて、逆に笑いが出てくるけれど。


[*前へ][次へ#]

9/42ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!