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小説
微熱の行方。
 商談室のドアの前で見るからにがっくりと肩を落とした幸村を見かけて、少し迷ったが、政宗はその背中に声をかけて書類で頭を軽くはたく。
「また、駄目だったのか?元親に手酷く言われた?」
「あっ伊達バイヤー、こんにちはっ。ええ、まあ。企画が通らないのはよくあることなんで。」
 勢いよく振り返った幸村は、腕の中に何だか彼にそっくりの可愛らしいクマのヌイグルミを抱っこしていた。
「何だ、それ。」
 少し視力の悪い政宗は、幸村の分身みたいな物体に顔を近づけてみる。
「これはうちの新商品、アニバーサリーくまちゃんといいまして、声を録音する事が出来る商品なんです。これをクリスマス用に、小さな女の子向けに提案をしたのですが。」
 やっぱり駄目でした、と幸村は少し落胆を滲ませて苦笑する。
―――確かに、元親が前に言ったとおり、どっかで見たことのある商品だな。
 幸村に悟られぬよう心の中でそう漏らした政宗は、新商品を改めて観察する。
「ふーん。どれどれ。」
 そのとき、幸村がおもむろにクマの右手をぎゅっと握った。
<こんにちはっ>
 突然どこからか異質な声を発したクマに、声は出さぬよう我慢したが、政宗は内心驚く。
「ふーん、これさ、提案の仕方変えてみるのも手じゃねえの?小さな女の子向けじゃなくてさ、カップル向けで、クリスマスプレゼント用にプレゼンしてみるとか。」
<ぼく、クマさんだよ〜。>
 面白がって政宗はクマの右手を握って遊ぶ。
<よろしくねえ〜。>
「どんな風にです?」
 生真面目な幸村は政宗の言葉に、真剣そのものの表情で耳を傾けている。
「どんな風?そうだな・・・。」
 目を閉じた政宗は、じっと考え込んで、そして声に出してみた。
「たとえば、好きだ、とか?」
 そう囁いた瞬間、至近距離で目が合った幸村の顔がボッと火が出たみたく頬を朱に染めたので、つられて政宗も赤くなってしまい、隠すように顔を右手で覆った。
「・・・って、吹き込んでプレゼントするのとか、いいんじゃねえの?」
「はい・・・、有難うございますっ。早速会社に持ち帰って、上司と相談してみます。ではっ」
 耳まで顔を赤らめたままの幸村は、そう元気良く言い残すと、廊下を颯爽と風のように走り去ってゆく。
「おいこらっ、廊下は走るんじゃねえよっ。」
 小さくなってゆく背中に声を投げかけた後、わざとらしく深呼吸する。
「台風みてえなやつ。」
 ボソッと一人呟いてみた政宗は、顔の熱がいつまでたってもひかないのを感じていた。


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