[携帯モード] [URL送信]

小説
セツナレンサ。−エピローグ−
<12月25日AM00:15 >
 ふわふわと体全体を覆う心地良い温もりに近い、幸福感に浸りながら、まどろんでいて。
 ふと、仄かに照らす光を瞼の裏側で気づいて、幸村は少しだけ片目を開ける。
 すると、寝室の扉が数センチだけ開いていて、リビングの灯りがそこから僅かに漏れていた。
「俺、寝てしまったのか・・・。」
 ガバッと勢いよく起き上がった幸村が下に目線をやると、きちんとパジャマに着替え終えていた。そして、ベッドの隣を見ると、いるはずの彼がいなくて、そこは、もぬけの殻。
 灯りが付いているリビングをドアの隙間から覗くと、一人、窓際に立った政宗がじっと窓からの景色を眺めていた。
 牡丹雪がこんこんと真っ暗な空から幾重にも重なって、重力にしたがって降りてきている。街中が、清楚な白に変貌する。一瞬で真っ白に塗り替えられている。
「起きたか?」
 人の気配に気づいた政宗が、背中越しにこちらに振り返って微笑む。
「なんか腹減ったからさ、ケーキ食おうかと思って。幸も食うか?」
「はい。」
 甘いものに目の無い幸村はそう言って、ずっと食べてくれる人を待っていた赤と緑のパッケージの箱が置かれているテーブルの元へ、いそいそと近づいた。
「そういやこれ嫌いじゃなかったのか?」
 からかうように言いながら、政宗は、四角い箱を開いて中からケーキを取り出す。生クリームケーキのデコレーションの上には、砂糖で出来たサンタとサンタの家がちょこんと乗っていた。
その間も、幸村の熱い視線はケーキから片時も離れない。ケーキが目の前に現れた途端、自然に顔が子供みたく無邪気にほころんだ。
「甘いものには罪はありませんから。」
「へえ。じゃあ、あんときは何で嫌いだったんだあ?」
 笑い混じりに問いかける政宗に、自らのパジャマの襟元を掴んで幸村は、言いにくそうに声をもぞもぞと発する。
「・・・じ、実は、ケーキを一緒に買いに来た女性が、政宗どのの結婚相手だと勘違いして・・・それで・・・。」
 ―――こんな俺、女々しいと思われたか。
 ごにょごにょと語尾が小さくなってゆく。
「ば〜か。」
 政宗は手を伸ばして、くしゃりと俯く幸村の頭を撫でた。
「幸、おいで。」
 呼ばれて素直にすぐ傍まで行くと、政宗の膝の上に座らされて、そしてケーキナイフを握らされて。その掌を、政宗がそっと上から握り締める。
「おりゃ、ケーキ入刀〜。」
 おどけるふうに言った政宗は、幸村の手を導き、そのまま丸いクリスマスケーキにナイフを入れてゆく。
 そして視線はケーキに向けたそのままに、真剣な声に戻って、政宗は告げる。
「結婚式は出来ねえけど、俺は、誓うから。あんたと、一生一緒にいるって。全力で幸せにする。」
「俺も、ずっとずっと、政宗どのと一緒にいると誓います・・・っ。」
「幸村、愛してる。」
 程無くして顔をぐしゃぐしゃにして泣きそうになった幸村は、政宗の温かい胸元にぐいっと顔をおしつけて、くぐもった泣き声を上げた。
「結婚しよう、な。」
 幸村の体を感情もろともしっかりと抱きとめて、政宗は懐の中の幸村の耳元に優しくその美声で囁く。
「今日から一緒に住もう。」
 泣き散らかした顔で、こくんこくんと何度も何度も幸村は頷いた。
「ほら、あーん。」
 雛鳥の餌付けのように幸村の口の中に、ケーキを放り込む。 
 砂糖いっぱいで甘ったるいはずのケーキは、少ししょっぱく感じられて。
 けれど、今まで食べたどんなケーキより、美味しく感じた。
                   −終わり−

[*前へ][次へ#]

8/42ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!