[携帯モード] [URL送信]

小説
その3
――――なんでなんでなんでなんでっ!
 何度思い出しても、腹立たしいは、信じられないはで、政宗は無性に泣きたくなる。
――――なんで、男と結婚しなくちゃいけねえんだよっ!!!
ご飯を貪りながら、凄い形相になっているだろう政宗が顔を上げると、目の前の彼と目が合う。彼は、瞬間、くしゃりと破顔して、無邪気に微笑んだ。
政宗は思わず、反射的に目線を反らしてしまう。
「あの、ご飯、美味しくないですか?」
おずおずと幸村は問いかけてきた。先ほどから話のきっかけを探していたみたいだ。
「・・・美味しいと、思うのか?」
逆に質問を返してしまう。
「まずいです。」
茶碗と箸を持ったまま固まり、俯いて彼は申し訳なさげに一言呟く。
芯の残ったご飯に、黒こげに炭化してしまった可哀想な原型を留めていない魚。調味料は普通に市販されているものを使っているはずなのに、どう間違ったらこんなに不味く作れるのかと疑いたくなる味噌汁。憩いであるはずの食卓に何を並べてんだよっと、星一徹ばりに全部引っくり返したくなるラインナップだったが、政宗は、黙々と無言で食べ続けている。
理由は、幸村の手。
絆創膏だらけの手を見てしまったら、どんなに一生懸命これを作ったのかがはっきり分かる。それを知ってしまったら、残す事はちょっと出来そうにない。
「不味いものを作ってしまって、ごめんなさい。」
「これから、上手くなったらいいんじゃねえの。」
 最後の飯一粒まで綺麗に食べ終え、箸を置くと、政宗はぶっきらぼうに呟く。
「え。」
 その言葉に、弾かれたように幸村は顔を上げる。
「最初は、誰だって上手くなんてねえよ。これから、ちょっとづつでも、上手くなってくれたら、それでいい。」
「は、はいっ。」
 思いがけない政宗の優しい言葉に、凄く嬉しそうに、幸村は笑う。その笑顔を見つけてしまって、政宗は内心戸惑っていた。 
 不覚にも、可愛いと思ってしまったから。
 早く何とかしてこの状態から脱したいと願っているはずなのに。
―――なんだか、ほだされてきている?俺。
 落ち着き無く、政宗はズズッと音を立ててなみなみと注がれたお茶を啜った。


[*前へ][次へ#]

3/4ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!