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小説
その2
 シーンと水を打ったように静まり返った室内に、カチャカチャお茶碗と箸が微かにぶつかる音だけが響く。
 仏頂面の政宗は、食卓テーブルに座って、結婚相手と面を合わせて夕飯を食べていた。
 楽しいはずの夕餉なのに、まるでお通夜か、息が詰まりそうだ。
 先ほどの会話を思い出すと、ご飯も喉を通らない、そう図太い神経の持ち主で無い限り、通るわけが無いのだ。




****

ひどく脱力し、ソファから滑り落ちる体を、腹筋に力を込めて食い止めようとしたが、あえ無く重力に負けて床に転げ落ち、フリーリングに正座したままの幸村のすぐ傍に座り込んでしまう。その衝撃音に驚いて顔を上げた幸村と目線が克ち合い、気恥ずかしさから居たたまれなくなった政宗は、わざとらしく咳払いして、その心配そうな何か物言いたげな強い視線から完全に顔を背けた。
「は?結婚?そんなジョーク、今時、流行んないぜ、小十郎。」
「冗談なんかじゃありません。」
 ぴしゃりと小十郎は会心の一撃。
「そうだ、あんたはっ?こんなんで、結婚相手決めて良いのかよ。」
 小十郎では埒が明かないと踏んだのか、幸村に詰め寄り、肩を前後に揺さぶった。
「じっ実は、某の親が社長をしている会社がこの不景気のために経営難に陥り、不渡手形を出しそうになったのを、取引先の社長である伊達殿のお父様に助けていただいて・・。それで、その代わりということで、今回のお話を頂きまして・・・。」
 その語尾に畳み掛けるように、小十郎。
「まあ早い話、政略結婚、と言えますかね。」
「おい、小十郎、そんな重いことを笑顔で言うんじゃねえよ!それに、あんたは!!本当に、これで良いのかよ。親のせいで、あんたの人生決めてしまって・・・。」
「父上のためになるのであれば、この不肖ながら幸村、喜んで結婚いたします。」
 ぐっと拳を込めて力強く宣言したその真剣な二つの眼に、政宗はふうと腹の底からため息をつく。
政宗は、なんとか、この話を破談させようと必死だった。
言動にその必死さが滲み出ている。
―――何でこんな不条理な話が通ってしまうんだよ。
「一番の問題を忘れてないか?男同士なんておかしいだろうが。」
 身振り手振り大げさなリアクションで、政宗は訴えかける。
「大丈夫です。2020年に法律が改定され、同性同士の結婚が我が日本国でも可能になりましたので。」
 小十郎はしてやったりの、満面の笑みだ。
「おい、そうだ。結婚っつったって、俺、婚姻届にサインした覚えは・・・。」
「それは大丈夫、わたくし小十郎が、責任を持って政宗様の字体そっくりに代筆を。」
「小十郎、おまえ、公文書偽造って、知ってるか?」
 もうぐうの音も出ないのか、完全に床に両手を置き、項垂れてしまった政宗は小十郎に力なく突っ込む。
「今日から真田と一緒に住んでもらいますので、そのおつもりで。」
 嬉々として小十郎はポンと政宗の肩を叩き、そう告げる。
「不束者ですが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。」
幸村が大切そうに携えている旅行バック一つだけが嫁入り道具??
「もう、どうとでもして。」
完全に白旗の政宗は、もうそれしか言えなかった。

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あきゅろす。
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