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小説
その1
「では、今日から、何卒よろしくお願いします。旦那様。」
 おいおい、今はいつの時代だよ、と揶揄したくなる。
フローリングの床に三つ指付いて深々としおらしく頭を下げる目の前の人物を見咎め、政宗は寝そべるように座っているソファから転げ落ちそうになりながら、不審気な顔つきを隠そうともせず、ボソリと呟いた。
「なあ、何の冗談?」

****
 
ずんずんとわざとそこいらに響き渡るほどの足音を立てて、そこに近づき。
「もう、いい加減にしてくださいませ、政宗様っっ。」
 朝の穏やかな静寂をぶち破り、怒り心頭顔の小十郎は、ババンとドアを壊しそうな勢いで、寝室の部屋を思い切り開け放った。
「んんー、何事ぉ?」
 気だるい雰囲気をその精悍な体にまとわり付かせながら、キングサイズのベッドからのっそりと政宗は起き上がった政宗。まだ完全に脳は覚醒していないのか、眠そうに片目を拳で擦る。
「また!貴方様はっっ、女性を連れ込んで!!!!!」
いきなりの来訪者に、政宗の隣にいた半裸の女性は、キャッと小さく悲鳴をあげて布団の中に潜り込む。
「伊達財閥の跡取りである自覚がおありなのですか!あまりの素行の悪さ、お父様が心配しておられますぞっ!!」
「・・・分かってるさ。子供さえ、作んなきゃあいいんだろうが。」
政宗は、小十郎の説教を耳の端で聞きつつ、ふあああと小馬鹿にしたかのごとく、周囲の空気も吸い込みそうな大きな欠伸を一つ。
「そういう問題じゃございませぬっ。」
 間髪いれず、目くじらを立てた小十郎は厳しくぴしゃりと言い放つ。
「・・・おいおい、朝っぱらから、血圧上がるぞ。」
「分かりました。政宗様が行動を悔い改めないとおっしゃるのであれば・・・・、今度という今度は、この小十郎、考えがありますぞ。」
 すでに血圧は上がりすぎて振り切ってしまったのか、どこか一本切れてしまった風の小十郎は、そう言うと不敵な面構えでふふふと笑ったが眼は全然笑ってなくて。
「・・・小十郎?」
 政宗は、背筋に悪寒が走って、おもわずブルッと震えたのだ。

****
 あまりにインパクトがありすぎた、あのときの笑顔の小十郎の顔が免罪符のように思い出され、政宗は一時的に夜遊びを控え大人しくせざるをえなかった。
けれど、それから数週間の時が流れたが、小十郎からその件に関して音沙汰は無く、そろそろ政宗も六本木かどこかに出かけようかなと思っていた頃合だった。
ガタンと扉が開き、誰かが入ってきた音がして、続けて、やっぱりの耳慣れた声。
「政宗様、政宗様。」
「何度も呼ばなくても、じじいじゃねえんだ、聞こえてる。」
 自室のソファに胡坐をかいて座り込み、ゲーム中だったのか、不機嫌気味にそう答えると、大きな液晶テレビに視線を戻す。
「政宗様の結婚相手を連れてまいりました。」
―――???
 大音量でFFをしていたため、ちょっと小十郎の言葉が変に湾曲して届き、空耳が聞こえてしまったのか。
 いったんコントローラを置き、肩越しに振り返ると、そこには小十郎と、見慣れない、政宗と同い年くらいの青年が、少し緊張気味に立っている。
「あれ・・・。」
 政宗は思わず、声が喉から漏れ出た。
その小十郎の後ろに隠れ気味の彼の顔を見て、何かを感じる。
それは、どこかで見たことのある顔、誰か知り合いの、他人の空似か??
「真田幸村と言います。T高校の三年生です。」
 その顔をまじまじと見たかったのに、彼は思いっきり勢いつけて90度に背を曲げてお辞儀してしまった。
「彼が、政宗様の結婚相手ですよ。」
 やっぱり小十郎は<結婚相手>って言っている。自分の聞き間違いでは無かったのだ。
 何が何やらまだ上手く状況が飲み込めず、ハテナマークが脳内を飛んでいる政宗は、首をしきりに曲げ、眉間にしわが寄っている。
 そして、幸村は政宗の座っている二人がけソファの前に回りこむと、フローリングの床に躊躇無く膝を置き正座をし、三つ指を立てて、床に額が着くくらい深々と頭を下げた。
「では、今日からよろしくお願いします。旦那様。」
「・・・何の冗談?」
 ソファから転がりそうになる体制を必死に立て直そうとしながら、政宗はボソリ呟いた。


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