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小説
その10
「なあなあ、政宗。今日の夜、暇?」
 補習授業を終えるチャイムが鳴ったのを確認して、前の席の山田が、グルンと体ごとこちらに向いて、テンション高めに言ってきた。
「はあ?暇だったら、何?」
 机に散らばった消しゴムとシャーペンを筆箱に片しながら、目線を下向きのまま続きの話を促す。
「カラオケ行かねえ?頭数減っちまってさ。受験も大事だけど、たまには息抜きも必要だろ。」
「どうせ、お前が誘うって言えば、合コンか何かだろ?」
 悪名高き、というか、遊び人、というか、あまり山田のことで良い噂は聞かない。まあ、過去の自分のことはこの際、棚に上げてますがね。
 トントンとノックするように叩く小気味良い音を立てつつ、参考書とノートを机に当ててそれらを揃えながら、政宗は気の無い返事をする。
「行かねえし。」
「おまえ、最近、つきあい悪いな。」
 どうとでも言え、と、政宗は眼を眇めて、自分自身に対しても、もう一度聞かせるみたく、免罪符のごとく声を張る。
「俺、ホントに大事にしたい恋人いっから。女の子いる場所に行きたくねえの。変な噂立って、誤解されたくねえし。」
 今までが今までだから、恋人である幸村の信用度0なんだよな、と、政宗は、自らの行為を懺悔するかのように、心の中で深く溜息をつく。
 へえ、お前もなんか変わったよな、と、友達は、ポリポリと後ろ頭ら辺をかいて。
「でも、お生憎だが、合コンじゃねえし。お前も知ってる佐藤、あいつ今日が誕生日でさ。パーティするんだよ。」
「…誕生、パーティねえ。」
 そうボソリと、単語の意味を確認するように口の中で呟いて、若干胡散臭げに、ますます眼を細めたが。
「なあ、良いだろ?お前も祝ってやってくれよ。」
「カラオケ、だけだぞ。」
 そこを念押しして、渋々みたく、政宗は参考書を鞄に直しながら頷いた。
 今日は土曜日。次の日は、確認するまでも無く、日曜日。早々に帰って、夜には、幸村を家に呼んで、ベッドで朝までいちゃいちゃするのも良いよな、とか、政宗は斜め上辺りで妄想しつつ、鞄を肩に担いだ。


★★★
 いつもの野郎同士4人で、近所の総合体育館に集合して、全力卓球で爽やかな汗を流した後、これまたいつも通り、定番のファストフード店で腹ごしらえをしていた。座る席も毎度同じで、軽くデジャブ感を感じていた幸村だったが。
「幸村、この後、カラオケ行こうぜ!」
 いきなり背中をバンバンと毎度ハイテンションな慶次に叩かれて、我に返る。
「え、カラオケ、で?」
 ズズーッとイチゴシェイクを頬がこけるほど勢いよく啜りあげすぎて、突然襲った冷たさに脳が反応してキーンとなって、幸村は片目を瞑る。
「割引券もらってんだよ、丁度4枚。」
 その4枚を広げて、ハハハと笑う慶次は優雅に団扇みたいに仰いでいる。
「みんなも行くだろう?どうせ暇なんだし。」
 まあ確かに、土曜日の昼下がりに、デートにしゃれ込むわけじゃなく男同士で雁首合わせている時点で、暇だと物語っているのだが。
「良いぜ、俺は。オールナイトといきますかねー。」
 ストローを口に咥えた状態でしゃべる元親は、ソファにどっかりと背を預けている。
「じゃ、家康は?」
「まあ、わしも、今日は大丈夫だな。」
 三成は今晩遅くまで塾らしいからな、と、独り言みたいに家康が呟いたのを耳に留めてしまって、幸村は、三成殿とは??と、密かに首を傾げるが、何かを思い出して慌てて声を張る。
「でも、申し訳ござらんっ。俺、夜はちょっと用事が…。」
「夜って、もしかして、もしかしてっっ、恋人と約束してんの?」
 テーブルに身を乗り出して、慶次が言ってくる。しかも、興味津々に目を爛々と輝かせている。ガードするみたく両手を顔の前で立てて、腰が引けている幸村は、完全に慶次に押され気味だ。
「こっ…こいびと…、まあ、…そうかも…でござるな…。」
 改めて、言葉にすると恥ずかしい。歯切れ悪く、もごもごと口の中で、頬を桜色に染めた幸村は照れ臭げに告げる。
「えええっ!もしかして、あの例の年上の、好きって言ってた人と、上手くいってたのか?」
 隣に座る元親までからも、畳みかけるように聞かれて。
「ま、まあ…、そうみたいで、ござるな。」
 あわあわと狼狽えた幸村は、自分の事なのに、曖昧に返事してしまう。
「何だよ、初心で、一番色恋沙汰から縁遠そうだった幸村に、俺達、先越されちゃったじゃんかー。」
「でも、それは良かったなあ、幸村。」
 そう言って人の好い笑顔を向けてきた家康が、頭を子ども扱いで、なでなでする。
「あ、ありがとうでござる、家康殿。」
 くしゃくしゃと髪に触れられて、幸村も嬉しげに微笑んだ。
「そっかー、幸村も大人になっちゃったのかー。」
 慶次は天井を仰ぎながら、感慨深げにそう呟く。
「何だか、俺も内心、複雑だな。」
 うんうんと、腕を組んだ元親が、賛同するみたく、頷きまくる。
「じゃあ、」
 帰ろうか、と、続くと踏んでいた幸村だったが、両側から拘束みたく、息の合った元親と慶次に腕を掴まれて、眼を何度も瞬かせた。そのまま、座っていた椅子から、無理やりみたく立たされる。
「お祝いだなー、幸村。」
 両側の2人を交互に上目使いで見上げると、目に入るのは、なんとも意地悪そうな笑顔。
「え、えええ、ええええ?」
「今日ぐらい、彼女いない俺達3人につきあえよっ!もち、日曜の朝までな。」
 ズルズルと引きずられて、まるで、囚われた宇宙人のごとく、そのままカラオケ店へ直行と相成った。

★★★
「どういうことだよ、これ。」
 いそいそと皆の分の飲み物を注文しようと席を立つ友達の腕を引っ掴んで、苛立ち気に政宗は、その耳元で問い詰める。
「見ての通り、誕生日パーティだよ。」
 確かに、パーティなのかもしれない。でも、交互に女の子5人、男子が5人、コの字型のテーブルに座っている。何だ、この仕組まれた感じ。
「女がいるじゃねえか。」
 すぐ傍にあった耳たぶを、心に湧き上がる不信感の勢いのまま、ぎゅーっと引っ張る。いて、いてて、と、赤くなった耳たぶを抑えながら、山田は小声で、でも何とか弁明しようと、必死さを滲ませて捲し立てる。
「お前が来るって言ったら、女の子が来ちまったんだよ。」
「へええ、そうなのか…、じゃあ、俺、この辺で。」
 携帯と上着を持って、回れ右でそそくさと出て行こうとする政宗の肩を、慌てて掴んで引っ張って。
「待った。ごめん、ごめんね、政宗。最初から女の子は来る予定だったよ、確かに。」
「…お前、俺を騙したな。」
「お願い!お前がいねえと女の子帰っちまうんだよっ!」
「俺は、撒き餌か何かかよっ。」
 聞いたところによると、女の子の素性は、山田の友達の友達。自分達の通っている高校の近所にある大学に通っているとのこと。この近辺で、お洒落で可愛い子が多いと評判の大学だ。
「なあ、政宗ってば。」
 はあああと、政宗はこれ見よがしに大きく長く溜息をつくけれど、実際は押しに弱い。こんな風に頼まれると、正直、断れない。
「分かったよ。」
 しょうがねえな、と、そう言いながらも、席を立ってしまう政宗に、一度気を抜いていた山田だったが、再び狼狽した様子で全力で引き留める。縋るように政宗の腕に両腕でしがみついてきた。
「おい、政宗、どこ行くんだよ。」
「電話してくる。」
「逃げんなよっ。」
「だから逃げねえよ。上着置いてけば、良いんだろ、こうやってっ!」
 自分の座っていた席に、叩きつけるみたく、着てきた上着を置いた。
 ここは地下で電話が通じない。
 虚しく圏外なのを大きな液晶画面確認して、チッと舌打ちする。まあ、この大音量の中では電話なんて到底無理なんだけど。
 政宗は、とりあえず一度幸村に連絡しておこうと、携帯片手に騒がしい部屋から出る。階段を上がったところで、電話する適当な場所を探してキョロキョロしていると、後ろから、ねえ、と、声をかけられる。まさか誰かついて来ているとは思いもよらず、政宗は、内心ドキッとして、体を震わせた。
「伊達君、どこへ行くの。」
 シャツの後ろ部分を、布が伸びるほどに掴まれる。
「あんた、酔ってるのか?」
 そのフラフラ揺れている体と充血している目がおかしいのに気づいて、政宗は溜息交じりに聞くと、眼を眇める。
「酔ってないよお。」
 酔っている相手が、酔っていると言うわけないか。
 アルコールのせいなのか華奢なハイヒールのせいか、女の子はこちらへよろけてくる。女の子を無下に払うことも出来ず、政宗は倒れ込んできたその体を、おっと、と、反射神経をフル活用で、片手で支えるように抱きとめた。
「もう、タクシー呼ぶから、帰った方が良いぜ。」
「おー、ここ、ここ。」
 そこへ高校生らしき集団が、がやがやと楽しげに、階段の降り口近くにやって来た。
「やっぱ幸村、食べ物の話ばっかりだなあ。」
「そんなことないでござるっ!たまたま、タコ焼き屋が目に入っただけで…。」
「でも、口を開けば、お腹空いたーか、あるいは剣道のこととかだろ。」
―――ゆ、幸村?
「あ。」
 身に覚えのある声と名前に、相手が気になった政宗は、顔を上げて、その騒がしい音源を確認すると、口をポカンと半開きにした。
「え?」
 同姓同名の誰かじゃなく、幸村本人の登場。幸村は金縛りにあったかのごとく、直立不動になってしまっている。
―――なんて、なんてタイミングなんだよっ!
 政宗は、動物的本能で、瞬間女の子から身を離そうと試みたが、女の子の方が先回りして両腕でしがみついて来ていた。
「…ま、政宗先輩…。」
「ゆ、幸村…。」
 2人のその姿を、仲睦まじいそれと勘違いした幸村は、眼をこれでもかと開いて、ワナワナと唇を震わせている。
 恋人の浮気現場を目撃した幸村は、今にも泣きわめき出しそうな顔で、唇を悔しげにギリリと噛み締めた。
「これはっっ。」
「あれー、もしかして、伊達先輩ですか?」
 政宗と幸村の一触即発の、緊迫した雰囲気とは温度も緩さも全く違うそれを纏わせた慶次が、全く空気読めない感じで、間に入ってくる。
「え、俺のこと、知ってんの?」
 初対面だよな、と、政宗は、傍らの幸村の表情とは真逆の、にこやかに笑っている慶次に、不思議そうに問いかける。そうしながらも、女の子は自分に抱きついたままで、内心、政宗は無常の溜息をつくしかない。だって、一身に受けている幸村の目線が痛すぎる。目からビームでも出てんじゃねえの。俺だって、離れたいんだよ、でも離れないんだよっ!
「そりゃあ、うちの有名人ですから。カッコいいってうちのクラスの女子も言ってますよ。学校で知らないヤツはいないんじゃないですか。」
「そりゃ、どーも。」
「さすが、いつでもどこでもモテモテですね。大丈夫、言いふらしたりしませんから。安心して下さい。」
「何をだよ。これは、違うって。」
 これ、は、未だ抱っこちゃん人形のごとく、しつこく縋りついている。アルコールが脳を回ったのか、政宗の腕の中でスースーと寝息を立て始めていた。
「なあ幸村、もしかして、伊達先輩と知り合いなのか?」
 何か、幸村と政宗の間に何か因縁みたいなものを感じた家康は、傍らの幸村に問う。
「ただの部活の、先輩でござるよ。」
 両眉毛の間に何本も皺を作って、彼らしくなく、そっけない感じで言ってのけた。
―――これは、かなり、怒ってる。
 それの証拠に、口が不自然に尖がっちゃってる。おかんむりの時の、小さい頃からの幸村の癖だ。まあ、そんな所もいじらしくて可愛いんだけど、とか思ってしまうのは、親馬鹿ならぬ、幸村馬鹿、だからか。
 軽やかに階段を上がってきた政宗の友人は、階段の入り口周辺でたむろっている集団の中に友人の政宗を見つけて、フッと苦笑を零す。
「なんだ、政宗、帰ったかと思っちゃったじゃん。何々、恋人が待ってるからって来るの渋ってたわりに、女の子と仲良くやってんのか?」
「だから、ちげーし。」
 何気に火に油注ぐんじゃねえよっと、心の中で政宗は突っ込む。幸村の縦皺がまた数本増えちまったじゃねえよ。
「なあ俺達も、そろそろ入ろうか。」
 言うチャンスを窺っていた家康が切り出してくる。そうだなと、階段を降り始めようとしている4人を見た山田は、政宗に、なあなあと、聞いてくる。
「何、この子たち、政宗の知り合い。」
「まあ、うん、そんなとこ。」
「じゃあ、4人も混ざれば、大学生の女の子もいるよ。」
「俺っ、行きます、行かせてください。」
 山田に振り返って、その上がぶり寄った慶次は即答だった。も一つおまけに、山田の手を両手でぎゅぎゅっと握ってしまっている。他の3人は複雑な表情で、でもしょうがないかな、という感じで頷いた。


★★★★
―――なんだ、この席。
 自分の隣に慶次で、その傍らが幸村、というなんとも変な感じだ。しかも、幸村は不自然に体を、政宗を拒絶するみたく、家康の方へ向けてしまっている。あれから、幸村は全然こちらを見てくれようとしない。
―――やべえ、完全に怒らせたみたいだ。
 まあ、あんな状況、誤解しない方がおかしいわな、と、政宗は今日の自分の運の無さに肩を落とした。朝の星占い、最悪だったんだっけか。
「4人はドリンク、何飲むんだ?」
 問うた山田への返事は、元親がコーラで、慶次がアイスコーヒー、家康がオレンジジュース。じーっと熱心に、食い入るみたいにメニュー表を見ていた幸村の心を読むように、思案気に政宗は下唇を指で撫でる。
―――このラインナップなら…、ソフトクリーム付のクリームソーダかな。
 心の呟きに被せるみたく、発せられた幸村の声は。
「じゃあ、俺、クリームソーダで。」
 ビンゴ、だな、と、政宗は、満足げにしたり顔をする。
「何、1人で笑ってんの?政宗。」
「いや、うん、別に。」
 げげ、見られた、と、恥ずかしげに政宗は、山田からそっぽを向いて、わざとらしい動きで曲本をパラパラと捲る。
「あの、伊達先輩って、彼女いるんですか?」
「恋人はいるけど。」
「へえ、どんな人なんですか?」
 慶次が興味津々に次々と質問をぶつけてくる。学園1のモテ男の生態でも知りたいのだろうか。
「まあ、…超可愛いけど。」
 あんたの隣で未だメニュー表とにらめっこしてる、とはさすがに言えず、無難な箇所で言葉を切った。
「へー、先輩の彼女、見てみたいなあ。」
「今度、連れて来いよ、政宗。で、紹介しろよ!そのついでに、その子の友達を俺に紹介してよ。」
 だから、その子の友達は、そこに野郎ばかり3人来てるけどな、と、政宗は、心の中で舌を出しつつ、ゴクゴクと、氷が溶けて薄くなったコーヒーを飲み干す。下の方は、ほぼ水だ。
「あいつ、シャイだから、それは無理無理。」
 政宗は気の無い返事を返しつつ、ヒラヒラと手を振って見せる。
「どんな雰囲気?芸能人に似てるの?」
 うーんと、政宗は少し悩んで。
「…芸能人は分かんねえけど…、天然ボケで単純で、熱血バカで、超可愛いんだよなあ。」
「惚気のつもりだろうけど、なあ、それ、褒めてんのか?」
 当の本人である幸村は、テーブルにあったポテトをつまんで、険しい顔で、上と下の歯で噛み締めるかのごとく、ギリリと噛んでいる。
「なんか、女版幸村みたいだな。」
 と、元親が、背を丸めてポテトで頬袋をいっぱいにしている幸村にからかうみたく話しかけているが、案外というか、彼はかなり鋭いところをついていた。
「やっぱ、グラマーなのかあ?お前の歴代の彼女って、かなり巨乳だったじゃん。」
「…いや、胸なんて、つるぺただけど。」
 ていうか、幸村に胸なんかあるわけねえし。あったら怖いし。
「何々、趣向替えしたわけ?」
 山田は、政宗の肩を抱きつつ、からかうように言ってきた。
「まあ、ぺったんこでも、感度は良いんじゃねえの?」
 しれっとした感じで言ってみる。チラッと幸村を盗み見すると、俯いて、今度はスパゲティを食べることに集中しようとしているらしい。口の周りをケチャップだらけにしていて、なんとも愛らしい。でも耳まで真っ赤になっているので、鼓膜をそばだてて、こちらの話を逐一聞いているようだった。
「でも、甘いモノ好きで、あいつ、お子ちゃまだからな。大人の色気は皆無ってやつ?」
 そう政宗が軽い気持ちで言ったその瞬間、1つ隣の席で、幸村が見事にクリームソーダを噴いてしまった。おしぼりを友達皆から貰って、緑に染まった口と机を焦ってしこしこ拭いている。
「誰かー、追加注文する人―。」
「あ、俺っ、お酒をいただくでござるっっ!」
 幸村は宣言するように、挙手して大きな声で言った。
「はああ?」
 その思いもかけない人物の、思いもかけない発言に、周りにいた一同、驚きを隠せない。
「幸村、お前、酒なんて飲んだことあんの?」
 マイク片手に、歌を中断してまでも、心配げに元親が声をかけてくる。その言葉はエコーがかってしまっていた。
「俺、酒、大好物でござるっ。」
「じゃあさ、幸村クン、これ飲まない?私の飲みかけで悪いけど。これ、ちょっと強いから、もう飲めないんだ。」
 でもそこで、家康の隣に座っていた女の子が、オレンジ色のカクテルを両手で差し出してくる。
「間接キスになるけどね。」
 余計なひと言付け加えんなよ!と、政宗の心の中の突っ込みが入る。
「あ、ありがとうございます。」
 受け取る際に、互いの指の先が触れ合ってしまって、初心すぎる幸村は、瞬間、頬を朱に染めた。
 政宗は、その一部始終を、目の当たりにしてしまって。
―――あ、ヤバい、俺。
 カッと頭に血が昇る。ちょっと、否、かなり、イラッとした。血が沸騰しそうだ。
「ええっ、何々、伊達君って巨乳好き?私にもチャンスある?」
 会話にかなりの遅れを取って、近くにいた女の子が、自分を指さして聞いてくる。胸元がXの字にばっくり空いたキャミで、大きな胸の谷間を強調している。
「無いとは言えない、かな。」
 政宗は、1年ぐらい前には頻繁に使っていた女の子をメロメロにする笑顔を、顔に貼り付けて、答えていた。
「さっきのお前、彼女一筋って言って無かったっけ?」
「そんなの、関係ねえし。あいつも、他の誰かとよろしくしてんじゃねえの。」
 吐き捨てるみたく、言ってしまった。
―――自分も、まだまだ子供だな。
 幸村への当てつけみたいに、女の子に色目使ってしまっている。相手なんか誰でも良かった。先ほどの自分と同じく、幸村にヤキモチを妬いて欲しい、という、ガキっぽい感情だ。
 家康がお手洗いに立ったのを見計らって、先ほど幸村にカクテルを渡した女の子が席を詰めて幸村の隣に陣取る。どうやら、幸村狙いらしい。されど幸村は、緊張気味に、少し慶次の方へ詰めてしまう。
「幸村クン、頼んでいたやつ来たよ。」
 甲斐甲斐しく、美味しそうに泡が立った、中ジョッキを渡してくる。どうも、と、感情乏しい表情で受け取った幸村は。
「良い飲みっぷりー。」
 ビールジョッキの中身をゴクゴクと音を立てて、一気に飲み干してしまった。
「おい、幸村。」
 パチパチと拍手する女の子の傍らで、慶次と元親が、ハラハラしながら声をかけている。
―――幸村のやつ、アルコールなんか、飲んだこと無いはずなのに。
 政宗も眉根を顰め、誰にも聞こえない大きさで、チッと小さく舌打ちした。


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