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小説
番外編 前篇
 なーんか、納得いかないよね。
 大木の太い枝に腰を下ろしている佐助は、漆黒の闇に浮かぶ月を眺めながら、眉根を顰める。
 今まで大事に種から育ててきた果実を食べごろに熟す前に横取りされて、目の前で齧り付かれた気分だ。2人がくっついたのは、自分の主の浮ついた態度で分かる。そうなることは勿論、予測していた。あのいけ好かない野郎に、出会った時に一目惚れだったのも、幸村本人よりも分かっている。ホント、胸糞悪いことに。
 こういう時って、自分の、研ぎ澄まされ過ぎな洞察力を恨む。知らない方が幸せなことだってある。幸村みたいに鈍感だったら…、まあ、あれは鈍感すぎるか。
「こうなったら、多少は、意地悪しても良いよね。」
 彼と離れられない自分は、一生、この成就することの無い想いと共に、生きていかないといけないのだから…。
 独りごちた言葉は、少し憂いを帯びて、空間に儚く消えた。

☆☆☆☆
「はい、旦那。」
 女体化して頭一つ分小さくなった自分の主の背中に、佐助は声をかける。
「な、何だ、これは。」
 昼間帰って来たばかりだというのに、息つく暇もなく、またもや支度を整えて出かけて行こうとする幸村の鼻先に、佐助は片手で重厚なお茶碗を差し出す。湯気立つそれに、目を真丸くした幸村は興味津々に視線を注いでいる。
「栄養つけてもらおうと思ってさ。俺様特製の滋養強壮に効く飲み物。」
「それはかたじけない、佐助。」
 純真無垢に、にっこり微笑んだ幸村は、微塵も疑うことなく、その毒々しいくらい鮮やかな緑色の液体を豪快に啜る。それを傍らで眺めていた佐助は、眉根を顰めて、微妙な表情をしている。それを意味するのは、苦々しいのか、嬉々としているのか。
―――こういうとこ、本当、直さないと駄目だよなあ。
 涼しい顔した佐助は、幸村の喉が上下に動くのを冷静に確認しながら、脳の片隅でそんなことを思う。
 俺自身が誰かが化けた敵かもとか、疑ってかからないと。
 そして、例えば。
―――これに、なにか毒が入っているかも、とかね。
唇の端を微かに引き上げた佐助には気付かず、幸村は一気に飲み切った。
「では、佐助。行ってくる。」
 プハーッと気持ち良さげに息を吐いた幸村は、その器を佐助に戻す。
「うん、いってらっしゃい。」
 顔を引き締めて頷いて見せ、回れ右で背を向けて出て行こうとした幸村だったが。
「…ッッ。」
 突然、その幸村が視界からフッといなくなった。
「さすが、即効性のやつだな。」
 微塵も驚きもせずに、腕組みをした佐助は1人納得してうんうんと頷く。
「…っ、なっ…、なんなのだ…これは…。」
 逆に驚きまくった幸村は、両手を畳に突いて立ち上がろうとしたが、まるで腕の力が入らず、ガクンッとその場に突っ伏す。完全に腰砕けになってしまった幸村は、その場に這い蹲った。
「…ッ、なんか…、心臓が…っ。」
 うつ伏せの状態で、幸村は切なげに荒い息を吐きながら、胸元の薄い布を鷲掴む。
「もう、少しは警戒しなさいよ、旦那も。」
 佐助は倒れ込んでいる幸村の傍らに腰を下ろすと、その後頭部あたりに向けて苦笑交じりに言葉を落とす。
「えっ…。」
 気持ち悪い汗をかきながら、小さく声を上げた幸村は、目を大きく見開く。
「さっき旦那が飲んだの、すごく強い媚薬を混ぜてあったの。しかも、効き目が早いヤツね。」
 にっこり笑って、そんな薄ら恐ろしいことを言ってのける佐助に、信じられず、幸村は声を張り上げる。
「なっっ…なんでっ、そんなものを…ッ。」
「そんなの、教えてあげないよ。」
 幸村の体を仰向けに反転させ、赤らんだ頬を包み込むように掌で触れる。普段から体温高めの幸村の肌は、火傷しそうに熱くなっていた。口づけようと唇を寄せると、瞬間、幸村は全力で拒否するように、両目をぎゅっと閉じて顔を背けてしまった。
 途端、ツキンと、胸が針を刺されたかのごとく鋭く痛む。
―――好きな相手に、操を立てている、か。
「…なあ、そんなに、あいつが好きなの?あいつじゃないと、駄目なのか?独眼竜は俺達の宿敵なんだよ、分かってんの?」
「わ…、分かっているっっ。」
「分かってないよ、全っ然。」
 よっこいしょ、と、掛け声をかけつつ佐助は、幸村の背中を支えて上体を起こさせる。
「だってさ、旦那ってば、あいつになら命を奪われても良いと思ってるでしょ。」
「ええっ…、…んんっ!」
 その間も佐助の手は、いやらしい感じで幸村の括れた腰の辺りを、円を描くように撫で擦っている。瞬間、幸村は縋るように佐助の二の腕辺りを掴んだ。
 手際よく戦闘服のブラ部分の肩紐を下ろして、大きな胸を片方露わにしてしまう。
「大きくて可愛いおっぱいしてるよね。」
 フウと敏感な乳首に息を吹きかけられただけで、切なげに眉をしかめた幸村は、ンンッと息を大きく飲む。そして、乳輪全体を生温かい口の中に含まれた瞬間、幸村は首を反らせて熱を帯びた甘い声を上げてしまった。
「ああッ・・・、ンン…、あんッ・・・、さっ、さすけっ・・・。」
「良いよ、好きなだけ乱れて。全部、受け止めてあげるから。」
 もう片方の乳首は布越しに摘ままれ、クリクリと捻られて、鼻にかかった喘ぎ声が止まらなくなる。
「んあッ・・・、やっ…、あッ・・・んんっ!」
 淫らな情事を中断させるように、コツン、と、小石が外の柱に当たる音がした。佐助の指使いに夢中になってきている幸村は気付かなかったが、佐助は眉間に皺を作る。
「…何だよ、こんな大事な時に。」
 肌を桃色に上気させた幸村を畳にそっと寝かせると、佐助は、外と繋がっている襖をそっと音も立てずに開ける。待ち受けていた部下から耳打ちされた内容に、佐助は盛大に溜息をついて、相手に肩を落として見せた。
「こんな夜分に敵襲、ね。」
―――まあ敵の寝こみを狙うのは、奇襲の初歩的なところだけど。
「ごめんね、旦那。お仕事行ってくる。帰ってきたら、ちゃんと可愛がってあげるね。」
 襖のところから中を覗き込んで、苦笑いを零すしかない佐助は、倒れ込んでいる幸村にひらひらと手を振る。
「ええっ…、さ、佐助…ッ俺も…。」
「大丈夫、俺様だけでなんとかなる相手だから。…大丈夫だよ。」
 今の腑抜けた状態の幸村だと、足手まといになるだけだし、とは言えず、言葉を濁した佐助は、まだ何か言いたげな幸村を部屋に残し、襖をぴっちりと閉めてしまった。
―――でも、結局、安心している自分もいる。
あのままだったら、最後まで旦那を、手汚く、犯してしまっていただろうから。
 
☆☆☆
 あっけ無くパタンと襖が閉まって、幸村は下唇を噛み締める。
―――こんな状態でほっとかれて、どうすれば良いのだっ…。
完全に煽られた体は、もう止められないところまで来てしまっている。体の最奥が熱くて、ジンジンと疼いてたまらない。
―――も、もう、駄目だッッ…。
 はしたないと頭では分かっていても、もう本能で動いてしまう。
 片胸だけ肌蹴ていた胸から、ブラを剥いで、大きく盛り上がった胸を両方露わにする。女体化した自分の体を、まじまじと見てしまうのは初めてだった。こんなに大きい胸、物欲しそうに揺れている桃色の乳首。ますます体の奥が熱くなってきて、ゴクリと、大きく喉を鳴らしてしまう。
 綺麗な色をしているその尖りを指先でツンと押しただけで、背筋に電流が走ったように強い快感が襲ってくる。
「んッ・・・。」
 荒く息を飲むと、おそるおそるレオタードの下部分を自ら脱いで、全裸に近いあられもない姿になる。
 誰もいない。誰も見ていない。
 されど、その行為の背徳感からか、ますますドキドキと心臓を高ぶらせながら、今か今かと温度を上げて待っているそこへ指を這わせる。形に沿って指を動かすと、クチュと粘った水音がして、クンッと幸村は大きく身震いをした。
―――こんなのっ…怖いくらい、気持ち良いっ。もうっ、止まらない。
 ハアハアと、自分の乱れた呼吸音が鼓膜を犯す。政宗の長い指に愛撫されているときの状況を思い出して、見よう見まねで指先を動かしてゆく。
「んん…、あっ…、ふうッ・・・、はあっ…。」
 両目をキツク閉じて、指の動きだけに神経を集中する。
 ズプと自分の指が、両側の入り口を捲って、きつく収縮する中に入ってくる。敏感でヌルヌルな内壁を釣り針型に折った指の腹で擦る。
「ああッ!ひああッ・・・、んっ!…あああッ!」
 どんどん動きがエスカレートしてきた。
『ここが、良いの?』
 甘く、でも僅かに呼吸を乱したその好い声で、耳元へ囁かれる錯覚に陥る。
 大きく両足を開いたはしたない姿勢で、狂わしいほどの快感を貪り続ける。
「てがッ・・・かってにッ・・・、んんっ…ああッ、とめらんなッ・・・ああッ・・・。」
 2本の指は、ぐちゅぐちゅと突き入れるみたく激しく動き始める。蠢く内壁が指に絡まってくる。感じる乳首を自分で摘まみながら、敏感な中を刺激して、高みへと登らせてゆく。
「ああッ・・・んっ…あッ・・・、あんんッ・・・ひあんッ・・・ふあッ・・・。」
 喉の奥から絞り出されるような、甘ったるい声が、止まらなくなってきた。
「はあ…、まさむね…どのおっ…。」
 あまりの気持ち良さに頭が真っ白になってきて、視界が涙で滲んでぼやけてくる。
「んんっ!そ、そこ…、あッ・・・やらッ・・やらあッ・・・。」
 カタンッ。
襖が独りでに開く音に、自慰に夢中になっていた幸村は、ハッとして、そのまま固まってしまった。頭から冷水を浴びせかけらせたように、驚愕の表情で、幸村は息を飲んで、入ってきた相手を凝視した。全裸に近い心許無い格好になってしまった自分を両腕で抱き閉めている。
「だ、誰で…?」
 表情が分かるくらいに近づいてきた人物に、幸村は、今度は違う意味で驚く。呆けた声をボソリと出してしまった。
「あ…。」
「おいおい、何、してんだよ。幸村。」
 ヒュウと、その声の主は、ひやかすように口笛を吹く。
「ま、政宗、どの?」
「真っ最中だったわけ?」
「うわああああっ、こっ、これはっ…そのっ…、あのっ…。」
 幸村は、破廉恥すぎる自分を見られてしまって、素っ頓狂な声を上げてしまう。もう、どう繕っていいか分からない。恥ずかしくて恥ずかしすぎて、泣きたくなってくる。ぎゅううと、自分を抱く腕に、跡が残るくらいに力を込めた。
「1人でやってたのか?それなら、俺を呼んでくれれば良かったのに。」
 傍に寄ってきた政宗は、幸村の体を自分の懐へ誘うようにふわりと抱き寄せる。そして、うううーっと泣きそうに真っ赤になっている幸村の頭を、宥めるようにぐしゃぐしゃと掻き混ぜて撫でまくって、政宗は苦笑交じりに優しく告げる。
「だーかーらー、恥ずかしがらなくても、良いって。」
「それよりっ、どうして、ここに?」
 幸村も政宗の広い背中に手を回しながら、未だ全速力で走りきったくらいにドキドキしながら、ぼそぼそと問うた。
「…すっげえ、あんたに会いたかったから来た、じゃ、駄目か?」
「んんっ…。」
 その目の前にある美味しそうな口を甘く吸って、舌を差し入れると、幸村も懸命に絡ませてきた。
「もう、可愛いな、幸。」
「ええ?」
「さっき、俺の名前、呼んでたろ。そんなに、俺としたかったわけ?」
「えええええっ!!!!…そっっ…それは…ッ。」
 もうこれ以上無いほど、火を噴きそうなほどに幸村は顔を真っ赤に火照らせて、声を上ずらせる。
―――こっ、これは、これはもう、恥ずかしすぎる!!!
「俺もだよ、幸村…。」
 政宗は、幸村の白い裸体を両腕で包み込んで、抱き閉めて。
「俺も、すっげえ、あんたが欲しかったよ。」
 だから、ここまで着の身着のまま、馬走らせて来ちまった。と、酷く優しい声で、そんなことを耳元で囁かれて、幸村は衝動的に泣きたくなる。否、もう、子供みたいに泣き出していた。
「んっ、政宗殿っ。某も…、会いたかったでござるよ…。」
 幸村は両手を差し伸べて、政宗の首元にきつく抱きついた。


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