小説
その１７
政宗は、そのドクンドクンと激しく脈打っているものを、下着の中から取り出して。
「んっ…。」
瞬間、息が鼻から漏れてしまう。
それは、そっと触れただけでも、すぐに達してしまいそうなくらいに、欲望に腫れあがっている。
―――幸村が、他の、誰かのものになるくらいなら、俺…、俺っっ…。
くちゅりと水音を立てながら、先走りでぐしょぐしょになっている先端を、これまたローションでねっとりしている幸村のピンク色の蕾に押し当てる。
「まっ、政宗殿っ…！」
突然、幸村が上体を起こして、必死の形相で声を発してくる。動きを制すように、政宗の二の腕あたりをぎゅっと掴んだ。
「ま、まさか…っ、それ…、中に入れるので？」
「そう、だけど。」
背中を折って、すでに色っぽいキスマークがついている幸村の首筋に吸い付きながら、当然のごとく、政宗は返事をする。
「エッ、エッチなこと…、するってことで…？」
「もうやってるじゃん…、何度も。」
「だめっ、だめでござるよっっ…、それはっ…。」
ふるふるっと、幸村は首を激しく振る。
「なんで駄目なの？俺のこと…、嫌い？」
「ちがっ･･･嫌いなわけ、ないっ…、でも…、俺は教師でござるっ…しかも、政宗殿は未成年だし…こんな…こんなことっ。」
「ここまで何度もやっといて、今更、それは無いでしょ。」
「そっ…そんなっ…。」
強引にもう一度幸村をベッドに押し倒して、その程好く筋肉がついている太腿の裏を持って、股をこれ以上無く大きく広げる。
「俺のこと嫌じゃないなら、もう、俺、止まんねえよ。」
「んんっ…、だめっでっ…、まさむねどの…っ。」
「俺のこと嫌だって、大嫌いだって言ってくれないと、俺、センセのこと、諦められない。」
静止を振り切って、あてがったそれに、力を込める。ぐにゅりと、柔らかく解れたそこに、自分の先端が割入ってゆく。
「あっ…あああッ･･･だめっ、だめでっっ･･･、あッ！ひああッ･･･、はっ、はいって…。」
ぐぐっと、熱い内部の奥まで入れ込んでしまうと。
「んああああッ。」
感じ切った喘ぎ声が出たと同時に、びゅくびゅくっと幸村自身の割れ目から濁った液が飛び出した。
「んんっ…。」
息を飲んだ幸村は、激しい余韻のせいか、シーツの上で１つ身震いする。
「え？まさか、今ので、いっちゃった？」
カアアアと、背中を丸めた幸村は、これでもかと耳まで赤くなってしまう。
「駄目だって言いながら、本当は俺の、欲しかったの？」
政宗は息を上げながら、腰をゆさゆさと揺らして、もっと感じさせようとする。
「も…、やめっ･･･だめっ･･･、んあッ！…あああッ･･･んんっ…あんっ！」
「中が、俺のに、絡んできて、…、すっげ、きもちい…。」
「はんッ･･･も、もお…あッ･･･ひあああッ･･･、だめッ、だめえっ･･･。」
「…やばっ･･･。」
超気持ち良すぎて、クラクラしてくる。今までのと、気持ち良さのランクが違いすぎる。幸村と繋がっている。幸村の奥深くに、自分が入っていると実感して、心が満たされて、快感が止め処なく湧き上がってくる。
「ごめ…、俺も…、もう…もたね…。」
「あああんッ！いくっ･･･、いっちゃっ…はんんっ！」
その幸村の、腰にくるほどに甘ったるい感じ切った嬌声を聞きながら、政宗は自身をぎゅぎゅっと幸村の内壁で締めつけられて、その内部にたっぷりと精液を注ぎ込む。
ハアハアと荒い息を出しながら、ぐったりとシーツに倒れ込んだ幸村だったが、何かに気付いて、慌て始める。
「ひあっ…、また…おっきく…っ…。」
「一回じゃ、全然、たりねえし…。」
「も…もお…、無理っ、でっ…。」
泣きそうに声を発する幸村の体を、うつ伏せにクルンと反転させる。
先ほどからの初めての経験に翻弄され、幸村は身震いしながら、指先が白くなるほどに、シーツをきつく握っている。
「ひあッ･･･、あんんッ！ふあっ･･･、んあッ！･･･、もっ…もお、だっだめッ･･･。」
そのまま、逃げる細い腰を両手で掴んで自分の方へ引き寄せて、後ろから激しく突く。ググッと更に奥まで入れた瞬間、幸村の肉棒の窪みから先走りの液が飛んだ。
「あッ、ひあっ･･･、んんっ！…ああッ！ひああっ！」
内部の弱い部分を固く熱いそれでゴリゴリと抉るように突かれて、信じられないほどの、あまりの気持ち良さに、幸村は意識を飛ばしそうになる。身悶えるほどの快感が襲ってきて、ガクガクと腰を揺さぶられて、感じ切った甘ったるい声が勝手に喉から絞り出されてしまう。
「も、もおっ･･･、はげしっ…、ひんッ･･･あああッ･･･、んん…やらあっ･･･、も、だめえッ･･･。」
「いきそう？…いっていいよ…、おれも…また…やばい…。」
「あんんッツ…、ひああっ！あああッ！も、もっ、いくっ！･･･ひあああッ･･･。」
またもや内部に上書きするように熱い飛沫を受け止めながら、幸村もシーツに前を擦らせて達していた。
☆☆☆☆
「ごめん…なんか、俺…。」
ティッシュで、飛び散っている色んな液を、ぐったりしている幸村の体から拭って、そして自分のも後処理しながら、罪悪感に縛られている政宗は、情けない声で謝る。
―――もう、言い訳出来ない。こんなの、絶縁されても当然だ。
けれど、幸村の次の行動は、政宗の予想外のものだった。
「もう…、良いでござるよ…。」
「え？」
ふわりと、背中が温かさに包まれる。怒っていないとの証明のように、幸村はあぐらをかいて座っている政宗の腰あたりに腕をまわして、裸の身を寄せてきたのだ。
「あ、あの…、あのさ…。」
ゴクンと音を立てて息を飲んで、とうとう、聞きたかった核心部分を訪ねる。
「なんで、俺より、三成を、選んだ？」
酷い緊張から、声が震えた。馬鹿みたいに、緊張している。幸村に背を向けたまま、政宗は早口で一気に言葉を発した。
「どうして、三成なんだろって思って…。」
「え？」
「それが…、どうしても許せなくて、俺っ…。」
あの時の憤りが思い出されて、手の中のティッシュをぎゅぎゅっと握ってしまう。
「それ、いつの話で？」
「昼間の…喫茶店の指名の話…だけど。」…と、政宗は、言い辛そうに、答える。
その時の感情をおぼろげに思い出そうとしてか、しばらく幸村は黙り込んで。
「…あの時は、政宗殿、指名が入ったでござろう？俺…邪魔しちゃ悪いかなと思ったので…。誰でも良かったのでござるが、会計さんが目線の先にいて…。」
「ええ？そんな理由？俺より、三成が好きとか、そんなんじゃなくて？」
「彼のことはよく知らないし、好き…、とかは無いでござるが…。すごく綺麗な顔だなとは思っていたけれど…。」
最後の部分が聞き捨てならなかったが、この際、置いといて。
「そ、そうだったんだ…。」
ほとほと安心したのか、気が抜けたのか、政宗は、肺の中から大きく息を吐き出しながら、振り返って、少しだけ自分より小さい幸村の体をぎゅっと抱き締める。幸村も応えるように、政宗の広い背中に腕を回してきた。幸村の子供みたいに温かい体温に癒される。
―――俺、すっげえ早とちり…、それで暴走して無理やりみたいに、ヤッてしまったなんて。
「俺…なんか、馬鹿みたいに腹立っちまった…、ごめんな…。」
政宗は意気消沈みたく、幸村の肩口に顔を埋めたまま、沈んだ声で言葉を喉から押し出す。
「何故、そんなことで？」
「独占欲…かな、幸村のこと…誰にも渡したくないから…。キスなんて、他の人として欲しくねえし…。」
口の中がまたもや緊張で、カラカラになってきた。
「ま、政宗殿も、明日、劇で徳川君とキスするのでは？」
「あっあれは…劇だし…、俺の意志じゃねえし…、俺、幸村以外とはしねえよ。」
「ええ？」
「だからっ、俺にとって、センセは…、その、すっげえ、大事な、唯一の存在ってこと…。」
とうとう、言ってしまった。
ずっとずっと、心の中に仕舞っていた想いを、吐露してしまった。
「ま、政宗殿…。」
情けないことに、その反応が怖くて、幸村の顔が見られない。幸村の肩に置いた手を突っぱねて、バッと体を離すと。
「あっ、明日、早いから。もう、寝ようぜっ。顔がむくんでパンパンになったら、また元親に嫌味言われる…し。」
蛍光灯を消すため、政宗はベッドから降りてフローリングへ立ち上がろうとする。
きゅ、と、幸村が、後ろ手を握ってきた。
「おっ、俺も…、他の人とは、もう、キス、しないでござるよ。約束するから…。」
「え？」
「俺にとっても、政宗殿は、すごく、誰より、大事で、ござる…。」
掛布団にミノムシのように包まった幸村が、とつとつと、声を落とした。
「本当は、政宗殿に、相手してほしかったので…。でも忙しそうだったし、俺、教師だから、我儘を言ったら駄目かなと思って…。」
「……ええ。」
政宗は、どうしても聞きたくなった。その先を、幸村の口から言って欲しくなった。
「あの…。」
ベッドの上で力無く体を起こす幸村に、いつになく真剣な表情の政宗が詰め寄る。
「あの、さ…、その大事って…、俺のこと、好きとかってこと？」
「すっ…、好きで、ござるよ…。」
「それって、友達、とか、先生だから、じゃなくて？れ、恋愛感情で？」
「れ…、れんあい…かんじょうで…ござる。」
俯いて、更に顔を背けてしまった幸村は、片言の日本語のごとく、切れ切れに呟く。
「えっ…。」
もう、頭の中が、閃光弾でも打たれたかのごとく、真っ白になっていた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、俺、どうしよう。どうしようってば。
もう全身の血が沸騰するくらいに嬉しすぎて、完全に、頭がパニくっていた。やばい、掌、すっげ汗かいてきた。
「幸村、お願い、こっち向いて。」
おずおずという感じで躊躇いがちに顔を上げた幸村の顔は、今にも泣き出しそうになっていて、唇は子供がするようにへの字に引き結ばれている。
「やっぱ、すっげ可愛い顔、してた。」
「うううっ･･･、もお…見ないでほし…。」
幸村は自分の赤らんでいる顔を隠すように、政宗の腕の中に飛び込む。
「俺…、政宗殿のこと、初めて会った時から、実は、好きだったので…。でも嫌われてるって思って…振られたと思って、ヤケ酒して…、酔っぱらって…結果…あんなことにっ…。」
泣き声に近い、たどたどしい声で、それでも幸村は言葉を必死に紡ぐ。
「ええ？俺が、幸村のこと…、嫌いなんて…。」
あるわけない。初めて出会った時から、一目惚れだったのに。馬鹿みたいに、ベタ惚れだったのに。
「男同士…気持ち悪いって、付き合うなんてありえないって、前に、生徒会室で…。」
「あっ！あれは…その、売り言葉に買い言葉、と、言うか…。そうか、傷つけてたんだ、ごめん…。」
元親と喧嘩になった時だ。まさか、幸村に流れ弾が当たってたなんて。
「それに、俺…、５つも年上だし…、先生だし…、何より男だし。それに、政宗殿、女の子にモテモテで、ござるから…。」
「もう、そんなの関係無いってっ。俺だって、年下でなんかヘタレな感じだけど…、幸村のこと、すっげえ好きだから…。」
「ええっ。」
「前に好きな人がいるって言ったの、幸村のことだったんだよ。」
「う…う、うそで…。」
「嘘なもんか、俺、幸村に好きって言ってもらえたから、俺、それだけで、何もいらないから。それくらい、幸せだから…。」
「お、俺も…、すごく、幸せでござるよ。」
大きな幸村の瞳から、とうとう、じんわりと涙が溢れ、綺麗に筋を描いてホロリと零れた。
「どうしよう、俺も、すっげえ幸せすぎ…。」
この世の春って感じ？
幸村の心も体も、俺が貰ってしまって、こんなに幸せで良いのかなって思う。
幸せを噛み締めるように、もう一度、ぎゅぎゅっと腕の中の愛しい人を壊れるくらいに強い力で抱き閉めて、そして、堪え切れず流れ出た涙でぐしゃぐしゃな幸村の顔に、優しいキスの雨を降らせる。
「大好き、すごく、好きだよ、幸村。愛してる。」
お互いのおでこをコツンとぶつけて、募る、心の中で爆発しそうに膨らむ想いを、甘さを含んだ声で言葉に表した。
「俺も…、俺もっ大好き…。」
またもや泣きじゃくるように、泣き声に近い震える声で、そう言ってきた幸村の。
両腕を伸ばして抱きついてきた、甘い、蕩けるようなその声を、そのまま吸い上げるように、政宗は柔らかい唇にキスをした。
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