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小説
その16
 文化祭は17時まで。最後のお客を見送って、長かった一日が終わった。
「やっと、終わった…。」
 もう心身ともに疲れた、と、政宗は襟元にあったネクタイを完全に外しながら、大きく溜息をつく。女の子のハイテンションに合わせるのに、すごく魂を削られた気がする。回復呪文のホイミを唱えてもらいたいぐらいだ。
 早く帰って温かい風呂入って寝たい、もう泥のように寝ってしまいたい。
「お疲れさん。」
 疲労がズシンと両肩に乗って、哀れ、なで肩になってしまっている政宗の背中を、昼間と同じくポンと、労いを込めて、佐助が叩いてくる。
「明日も、この調子で頑張ってね。」
「…まあ、頑張りますけどね。」
 他人事だと思って、と、若干不貞腐れながらも、政宗は答える。そんな2人に、それよりさ、と、1日お菓子と女の子に囲まれて、甘い香りのするエプロン姿の慶次は困ったような表情で、話しかけてきた。
「明日、3人一気に昼間抜けるよね。」
「あーっと、劇が12時からだから、11時には外れねえとな。」
 いつの間にか傍に来ていた元親が、ポリポリ頬辺りをかきながら、代わりに返事する。
「どうすんだよ、今日みたいな忙しさで3人も抜けたら、対処出来ないって。」
「3時間くらいだからさ、何とか乗り切ってくれってば。」
「しかも昼時だろ?日曜日だろ?やばいよっ。」
「政宗と家康のファンは演劇の方へ来るから、少し減るだろーが。」
「それでもっっ、3人抜けられるのは一大事だって。」
 お互い妥協しそうに無い、元親と慶次の平行線の言い合いに、なんだなんだと、休憩スペースに皆が集まってくる。
「そうだ!幸村センセと佐助センセに助っ人頼んだら。特に佐助センセは発案者なんだから。」
 良いことを思いついた、と、言わんばかりに声を弾ませ、ついでにポンと掌を柏手みたいに叩いて、満面の笑みの慶次が言う。
「そんなの反対だっ!」
 え、と、きょとんとする当事者の先生2人とは別の方向から激しい横槍が入る。
「なんで、そこで政宗が反対なんだよ。」
「だって学園祭だぜ、センセに頼ってどうすんだよ。俺、すぐ戻ってくっから。」
 な、と、慶次の肩を持ち、政宗は、なんとか慶次を宥めすかせようとする。
 幸村にホストまがいのことなんてさせらんない、というのが、政宗の本心なのだが。
「お前らの穴を埋めないといけないんだから、政宗に発言権は無いよ。」
 ツーンと、つれなく慶次は政宗からそっぽを向いてしまった。
「何だっ、それっ。」
「しょーがないね、緊急事態だし。3時間くらいなら、俺は構わないけどさ。幸村センセは?」
「俺も、それくらいなら、大丈夫でござるよ。」
 にこやかに幸村が縦に頷いてしまったので、うーっと政宗は納得いかない表情で、下唇を噛んでいる。
「助かりますよ、センセ。」
「ありがとね、センセ達。」
 万事解決ってことで、と、元親は、政宗のなで肩からいかり肩に変貌している肩をバシンと強めに叩きながら、続いて、こんなことを突然言ってくる。
「おっし!このまま、良い感じの流れで、学校に泊まろうぜ、政宗。」
「はあ?」
「文化祭と言えば、このまま泊まり込んで準備したりする、ワクワクドキドキの行事じゃねえの?」
「それは、用意が間に合ってないトコと、元気が余ってるやつがするんじゃねえの?」
 胡散臭そうに眇めた目で元親を見ながら、疑問形に被せる形で返事してやる。
「それに政宗、お前、明日の劇の台詞ちゃんと完璧に覚えてんの?」
「覚えてるに、決まってるだろ。いつの話だよ、明日だろ、明日。」
「え?ええっ?マジで?」
 その元親の仰け反り気味の、本気の驚きように、政宗の方こそかなり驚いてしまう。
「お前こそ、マジかよ。明日だぞ、本番。」
「なあなあ、ジュリエットは覚えてんの?」
 視界に入った、いそいそとコーヒーカップを片付け中の家康をひっつかまえて聞いてみる。まさか俺だけじゃねえよな、という感じで尋ねた元親に。
「わしは覚えてるぞ。…元親、後で一緒に読み合わせしような。」
 倒れそうになったカップのタワーを抑えながら、家康は苦笑気味に言ってくる。
「お、おうっ…。わりいな、家康。」
 遅ればせながら、さすがにこれはヤバイと悟ったらしく、元親はトーンダウンしてしまった。
「えーと、俺はちょっと放送部見てくるから。」
 皆明日も頑張ってね、と、ひらひら手を振って、教室から出てゆく佐助に、元親は、ブーブー唇を尖らせる。
「もー、佐助センセ、逃げたなー。」
「幸村センセは泊まれるよね。」
 先回り的に、慶次が出口を塞ぐように立って、少し自分より目線低めの幸村を見つめつつ聞いてくる。
「え?あ…、お、俺は…、約束が…。」
 うーんと腕組みをして、幸村は眉毛をハノ字にして悩んでしまう。
「ほらっ、お隣さんの政宗も泊まるって言ってるし、ね?」
「…じゃ、じゃあ…、うん、分かった。」
 約束している政宗が泊まるなら良いだろうとふんだ幸村は、小さく縦に頷く。
「明日のスーツは、今着ているのにちょっとネクタイ変えるくらいで大丈夫だね。髪の毛も俺がカッコ良くセットしてあげるよ、ね、先生。」
 何気に幸村の柔らかい髪の毛に触りながら言ってくる慶次に、幸村はちょっと緊張気味に、顔を上げて微笑む。
「あ。ありがとう。」
「慶次、お前、なんか下心、見え見え。」
 目ざとく馴れ合っている2人を見つけた政宗が、コホンと咳払いをしつつ、小姑みたいに突っ込んだ。
「政宗の眼にはそう見えるだけだろー。」
「というわけだから、皆でこのまま泊まろうぜっ。おい、三成も、逃げんの禁止な。」
 部屋の隅っこにいた三成を見つけて、すかさず、元親が声をかける。
 やっとトレードマークの眼鏡をかけつつ、至極嫌そうな、舌打ちをしそうな苦々しい表情でこちらを見てきた三成だったから、隙を見て帰ろうと思っていたんだろう。
「そんなの、夕飯どうすんだよ。」
 政宗が、ごくごく自然な動きで幸村のスーツの襟元を直しつつ、元親にぶつぶつと文句を垂れる。
「んー、甘いもんなら沢山あるけど。」
 親指で指差した冷蔵庫の中は、色とりどりのケーキが詰まっている。
「えーっと…、甘いものは…、もういっぱいいっぱいです。」
 女の子が食べているのを見ていただけで、甘いモノの入る別腹は満杯だ。がっつりラーメンとか食べたい。普段は胸やけしそうで拒絶する、背油たっぷりのやつ。
「じゃあ、俺、他のクラスから目ぼしいもの、貰ってくる。」
 そう言った慶次が重い腰を上げて教室から出て行く。去り際に、幸村センセも期待してて、と、にこやかにウィンクを1つきめた。
 
☆☆☆
 もうすでに、リラックスなお家モードに突入なのか、スーツからジャージに着替え終えた元親が、見たことの無い真剣な表情で、家康と台本の読み合わせを始めている。何だかんだと言っても他のメンバーも明日の準備とかに追われているらしい。今まで姿の見えなかった元就は、三成と明日のローテーションを入念に確認中だった。
 手持無沙汰で、ぼんやりと窓からお祭り仕様に飾り付けられた校庭を眺めていた幸村に、政宗は周囲を伺いながら声をかける。
「おーい、センセ、幸村センセッ。」
「ま…、」と言いかけて、フルフルと首を横に振って、「せ、生徒会長?」と、幸村は言い直す。
 政宗は、ちょいちょい、と、幸村を手招きする。とりあえず、財布、家の鍵、携帯さえあれば、ここからとんずら出来る。それらをパパッと制服の上着に捕獲した政宗は、ざわつく室内から、そのまま、目を真ん丸にしている幸村を廊下まで連れ出す。
「家、帰ろうぜ、センセ。」
 ちょっと屈んだ政宗は、壁に押し付けた幸村の、その耳へコソコソッと小声で耳打ちした。
「え?生徒会長も、ここに泊まるのでは…。」
「なあ、昼間の、俺のお願い、忘れてんの?泊まりに来てって言ったのに。」
 廊下の暗闇に紛れて、幸村の手を包み込むように、ぎゅぎゅっと、しっかりと握る。
 頬を赤らめてムムムと考え込んだ幸村だったが、握られた手はそのままに。
「…っっ…、じゃあ、ちょっと、職員室へ寄る、から。」
そっぽ向いた幸村が、そう消え入りそうな声で、恥ずかしそうに答えてきた。
「うん、待ってる。」
 と、甘く囁いて、不意打ちに、温度が高くなっている幸村の頬にキスをした。

☆☆☆☆
「やっぱ、まだまだ夜は寒いっすね。大丈夫?」
「うん。」
 政宗は、ごくごくさりげなく、を装って、夜風を遮るみたいに、傍に寄ってみたりする。腰の横に下ろされている手に、自分の手の甲がトンと当たって、ドキンと心が驚く。このままこの手を繋ごうかどうしようかと迷っていると。
「生徒会長、あれ、人でござるか…。」
 校門付近に、まさかの人影を見つけた。訝しげに、目を凝らすと。
「え?こんな夜に。」
 しかも女の子だ。隣の女子高の制服らしかった。校門に背もたれみたく寄りかかっていた女の子も、近づいてきた2人の気配に気づいて、こちらへ素早く振り向いた。
「あ…、あのっ、伊達さんですか?」
 政宗の姿を認識して笑顔になると、パタパタと小走りに駆け寄ってくる。
「あ、はあ、そうですけど…。」
―――今、夜の八時なんだけど、まさか待っていてくれたの、か。
「こ、これ。お菓子なんですけど、受け取ってください。」
 ぎゅうぎゅうと掌サイズよりちょっと大きめの箱を胸に押し付けられて、横に幸村がいることもあり、どうしようかと政宗は思案する。本来ならば断るべき、けれど、こんなアスファルトから底冷えする外で、こんな夜まで待たせたこともあり、さすがに政宗は無下に突き返すことは出来ず。
「どうも、ありがとう。」
 照れ臭げに薄く微笑んで、その箱をそっと受け取った。
「あ、明日のロミオとジュリエット、すごく楽しみにしてますからっ。」
「それは、どうも。」
 じゃあ、と、嬉しげに手を振って去ってゆく女の子の後姿を、見えなくなるまで見送って。
「ごめんな、センセ。待たせて…。」
 貰った箱を幸村から死角になる左手にササッと持ち変える。
 暗闇でよく見えない幸村の表情。少し憂いがかっているように見えるのは気のせいだろうか。
「さすが、生徒会長、モテモテでござるなあ。」
「いや、俺は、別に…。それよりさ、ちょっと腹減ったんだけど、何か食べて…。」
 政宗は、早く話題を変えたいのか、会話に被せ気味に言葉を切り出す。
「佐助センセが、生徒会長がぶっちぎりで指名入ってたって、言っていたし…。」
 構わず幸村は、とつとつと話を続ける。政宗が繋ごうとしていたその幸村の手は、今、忙しなく襟元のネクタイの結び目を直している。
「生徒会長好みの、可愛い女の子、いたでござるか?ふわふわで天然な感じの…。」
 聞きたくない。鼓膜が拒否する。そんなの幸村の口から言って欲しくない。
 それに、可愛くて、ふわふわで天然なのは、あんたしかいねえだろって、はっきり言ってしまいたい。
―――そんなに、俺に、女の子と付き合って欲しいわけ?何でなの?
「幸村っ。」
 政宗は、名前を呼ぶと、驚く幸村の両肩を跡がつきそうなほどにしっかりと掴んで。
「だからっっ…、好きな人に、好きになってもらえないと、意味ねえってっ。俺、他の人にモテたって嬉しくねえしっ。」
 夜の静寂を切り裂くように、思わず、大きな声が出てしまった。自分でも内心、その声の大きさに吃驚してしまう。
「えっ。」
 さっきの子には本当に申し訳無いけれど、俺が欲しいのは、幸村の心、それだけだ。
「俺は、好きな人だけに、好きって言ってもらえたら、それだけでいい。それだけで、俺は幸せだから。」
 酷く真剣な声色で、政宗は鋭く言い切る。
「ま…、政宗、殿。」
「だから、もう、この話は無しで。」
 心が震えてきた政宗は、その爆発しそうに激しく募る感情のまま、幸村の手をとってぎゅっと繋いで、5本の指をしっかりと絡めた。そして、憤りが足元にも表れているのか、ズンズンとアスファルトを踏みしめて、幸村の手を引っ張りながら先を歩く。幸村が驚いて体を固く緊張させたけど、握られた手はそのままになっていた。
「…政宗殿の好きな人って…、一体、誰、なので…ござる?」
「え?」
 ボソボソと下を向いて落とされた、夜風にさらわれそうに儚い、呟きに似た響きの言葉を、前を向いていた政宗は聞き取ることが出来ず、振り返って聞き返す。
「なっ、なんでも、ないでござるっ…。」
政宗とバチンと目が合った幸村は、慌てた感じで首を振って、その後、躊躇しつつも、政宗の手をきゅっと握り返してきた。
「幸村の手、温かいな。」
 こうやって、一緒に帰れるなんて、それだけで心が満たされる。そんな相手は、幸村だけだ。後にも先にも、きっと、こんなに胸が焦がれるほど好きなのは、幸村だけなのに。
―――だから、お願い。俺のこと、拒絶しないで。

☆☆☆
「政宗殿、ダークスーツ、本当に似合うでござるな。」
「え、なに、突然。」
 お風呂から上がって、髪の水滴をタオルでくしゃくしゃ片手で拭き取りながら、ペットボトルに口をつける。ソファに座っている幸村にもペットボトルの水を手渡しながら、水に濡れた長い睫毛を瞬かせた。
「女の子相手にしているの、様になっていたでござるよ。」
ちょこんとソファに納まり、そんな心臓が鷲掴みされそうなほど可愛い笑顔で、そんなつれないことを言ってくる幸村に、そうかな、と、あまり嬉しくなさそうに政宗は、子供っぽく口を尖らせて返事をする。
 自分に無関心そうな幸村の言葉に、いちいち傷つく自分も嫌だ。俺が女の子と仲良くしてるのが、そんなに嬉しいわけ?とか、悪い風に考えてしまうのだ。女々しいけど、幸村のこと、すっげえ好きだから、些細なことでも馬鹿みたいに気になるんだよ。浮いたり沈んだり、一喜一憂してる。
 幸村の座るソファの隙間に滑り込んで、幸村のトレーナーの肩をさりげなく抱く。ペットボトルに口をつけて飲もうとして溢れてしまったのか、唇だけじゃなく口元全体を水で濡らす幸村を横目で見て、何だか、かなりヤラシイ気分になってきた。
「じゃあ、今から、練習してみる?」
「なっ、何っ?」
 後ろから抱く姿勢で密着して、耳元に息を吹きかけるみたく唇を寄せながら、幸村の手からペットボトルをもぎ取ってしまう。
「明日、センセも女の子相手しなくちゃいけないんだろ?」
 超、むかつくことに、と、付け加えそうになって、政宗は口を噤む。
「え?」
「でもセンセなら、うちの学校の男子の方が多いかもな。」
 長い指を絡めて、幸村の後ろ髪を束ねている紐をそっと解いてしまう。パサッと長い髪が、肩にかかった。
「ええっ?」
「幸村、ホストじゃなくて、3−Bの女装メイドの方が似合いそうだけど…。」
 政宗は薄く微笑んで、ひそひそ話をするみたく顔を近づけて、その良い声で囁いた。
「ちっ、近いでござるよ、顔が…。」
 顔を耳までカアアアと真っ赤にして、幸村は長い睫毛で目を覆うように瞼を伏せる。その両手は、圧し掛かってきている政宗の胸を押し返している。
「なんで、顔、背けるの?」
 甘ったるい雰囲気を醸し出しながら、聞いてくる政宗に。
「なっ…なんか、落ち着かないでござる…。」
 カッコ良すぎて、と、泣きそうな声でぼそりと呟かれたその言葉に。
「えっ、そんな、幸村ってば…。」
 そんな超可愛い顔で、そんな可愛すぎる事言われたら、俺、簡単に嬉しくなっちゃうじゃんか。
「…幸村だって、すっげえ可愛いし。」
「そんな、可愛いって言われても…。俺、もう22だし…嬉しくないでござる…。」
「なあ、こうすると、どう?」
 幸村の顎をとって上に向けると、チュッと音を立てて啄んで、悪戯っぽく唇を奪ってしまう。
「んっ!こっ、こんなこと、他の女の子にもするので?」
 年下に簡単に翻弄されて脈が跳ね上がってしまった幸村は、その事実を隠すように、あわわっと、慌てながらも、そんなことを聞いてきた。
「俺がキスするの、センセだけだよ…、他の子にするわけねえじゃん…。」
 そこまで手が早くも、見境無くも無いですから。幸村に対しては、もう、理性のハードル低いけど。
「誓って、幸村だけだって…。」
 幸村の首筋に吸い付きながらソファに押し倒して、パジャマ代わりのトレーナーを胸元まで肌蹴て、直に体をくすぐるみたく触ってゆく。平べったい胸を、円を描くように擦る。
「んんっっ…、やっ…、あッ・・・、こそばっ・・・。」
「センセ、すっげえ敏感だよね。」
 政宗の掌に触れられた場所が火傷しそうに熱くて、たまらず幸村は身を左右に捩る。
「それより、乳首弄られるのが一番好き?」
 もうすでにぷっくり立ち上っている目の前のピンクの尖りに、強めにぢゅっと音を立てて吸い付く。
「ひああッ!」
紅い舌をペロッと出して、幸村の少年っぽい平べったい胸をしつこいほどにベロベロと嬲って、風呂上がりだというのに、てらてらの唾液だらけにしてゆく。
「あんッ・・・、ふああッ・・・、やらっ・・・、そこばっかりい…。」
「好きなくせに。」
 括れた腰を撫でていた左手で、物欲しそうに震える右の乳首を形が変わるほどにキュッと摘まむ。
「ああッ・・・も、もお…、んんッ・・・、あッ・・・。」
 幸村の息が上がってきて、大きい目が熱っぽくトロンとしてきた。
「ベッド、行こ、幸村。」
 政宗も切羽詰まった声で、耳に直接囁きかける。
「んっ…政宗殿っ。」
 小さく頷いた幸村を横向きに抱き上げると、両腕をこちらに伸ばして、ぎゅっと幸村は政宗の首元にしがみついてきた。その一部始終の動作が可愛くて、もう可愛すぎて、完全に虜になってしまっている。ホント、こんな可愛い22歳の男なんて、世界中どこ探してもいないっしょ、と、ぎゅぎゅっとその腕の中の体を愛しげに抱き閉めながら、思ってしまう。ついでに、スンスンと首元で鼻を利かせて、風呂上りの幸村の香りを堪能する。はーっ、幸せ。マイナスイオンでまくり。過酷な明日もこれで、俺、頑張れる。
 そっと自分のベッドへ幸村を下ろして、恥じらう幸村を宥めながら、トレーナーとズボンを脱がせる。そして、ボクサーパンツのところで、やっぱり泣きそうに顔を歪めた幸村が、フルフルフルッと拒絶するように首を左右に振った。
「もう、大丈夫だって。」
「あっ!み、見ないで下されっ…。」
 足首まで脱がした下着と、幸村の完全に立ち上った肉棒の割れ目の間に、ツツーと透明な線が引かれた。
「感じてくれてるの、嬉しい。」
 ヒクッと身じろいだ、幸村のその震える唇に、政宗が唇を寄せると、幸村はキスを待つように両目をきつく閉じて、心持ち顔を上げた。
「かわい…、幸村…。」
「んんっ…。」
 政宗は、夢中になって、ベッドに深く押し倒した、幸村の唇を激しく貪る。
 幸村の顔の横で10本の指を絡めて手を握って、深く幸村の口に舌を差し込んで、しつこく舐めてゆく。そして、口の中の唾液を全部吸うみたく、幸村の柔らかい舌を啜った。
 激しいキスだけで、夢心地に腑抜けになった幸村は、ふああと甘ったるい息を吐くと、涙目で、こっちを煽情的に見てくる。
「やっぱ、すっげえ、可愛いよ、幸村。」
「も…、俺ばっかり…、女の子みたいで…、恥ずかしっ…で、ござるよお…。」
 汗ばんだシャツを脱ぎ捨て上半身裸になった政宗は、幸村とこういう関係になっていつか使うかなと用意していた容器を、ベッドの下から取り出す。蓋をとって、中身を幸村の腹に零した。瞬間、ひああッと、ひきつった声を張り上げた幸村が、体を仰け反らせる。
「これは…、なんで?つっ、つめた…。」
「これは…、うん…、ローションだけど…。」
 くちゅっくちゅっと粘着質な音を立てつつ、手の中でローションを伸ばして、今度は幸村の、立てた太腿の奥にたっぷりと塗り付けた。
「ひああっ!」
 指は少しの拒絶はあるものの、ぐにゅりと中壁を割広げ、容易に入ってゆく。瞬間に、幸村は大きく感じ切った声を出した。
「んんッ!やっ…やだあ…、なんか…、ああッ、ふあ…、あんんッ!」
 そして入り口の浅い部分を擦るように指を動かすと、目元を真っ赤にした幸村は、甘く喘ぎながら身悶え始める。
「ひあっっ…あん…あッ・・・やあッ、そっ、そこ、やっ…あッ。」
「最近何度もこういう事してるけど、センセ、最近、中で感じるようになったよね。そんなに気持ち良いの?」
「あんッ!・・・、ああッ・・・、いじっ・・・わる…、あああッ・・・。」
 蕩けるような表情で、親指を噛んで、いじらしくこちらを見てくる幸村に、鳩尾に熱い塊が生まれた政宗は、ゴクリと大きく息を飲む。
 実は、幸村の家に来るたびに、エロいことを覚えたてのごとく、さかりのついた感じで、やりまくってしまっていた。壁一枚だけを隔てた、隣の2人に気付かれないようにという背徳感とかそういうのが、ますます欲望を煽ってくる。でも、10代の性欲って凄すぎだと、自分でも思う。でも、幸村が、他の2人にこの話をしていないかと、気が気じゃないのだが。
「なあ、幸村、元親とか家康が、こんなことしようって言ったら…どうする?」
「っ…、するわけないでござるよっっ…。」
 すでに丸裸状態の幸村は、覆い被さっている政宗から隠すように、手の甲を顔に置く。気持ち良すぎて、惚けた表情になっている自分の顔を見られたくないようだ。
「え?マジで?」
「で、でも…政宗殿は、…その2人ともするって…。」
「……まあ、うん…。」
 政宗は、嘘をついているという後ろめたさから、お茶を濁すように返事をする。
「こんなこと…、2人とするの…、もう、止めて欲しいでござる…。」
「え?」
 表情を隠している手の甲を除けると、熟れた林檎のごとく真っ赤になっていた幸村の頬が、これでもかっと赤くなった。しまった、今の失言っという感じで幸村は、泣きそうに声を発するけれど。
「…なっ、なんでも…ないっ。」
「しない。しないから、安心して。俺も、幸村以外とは、しないから。」
 最初からしてねえから、とは、今更、言えなかったけど。
 熱く、引きつく内部に埋め込んでいる指を、再びゆるゆると動かし始める。
「焦らせてごめん、続き、しよ。」
「やあっ…、んんっ、…んーっ。」
「声、我慢しなくて大丈夫だから。今日、隣、いねえし。」
 簡単に、内部の幸村の弱点を見つけ出して、そこを集中的に愛撫してゆく。
「思う存分、感じて、声出して。」
「ひああッ・・・、あんっ!んんっ…あッ・・・ひんッ・・・んあああっ。」
 気持ち良すぎるのか、生理的な涙を零す幸村は、息を乱し、体を小刻みに震わせながら背を反らせて、一段と甘い声で啼く。
「可愛い声、まじ、腰にくるんですけど…。」
 政宗は自分の下着の中のそれも限界まで腫れてきたのを感じて、次の動きに移った。


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