[携帯モード] [URL送信]

小説
その8
「くそー。なんか、上手くいかねえっ!」
 学校から帰宅後、むしゃくしゃしている気分を何かで解消しようと思ったのか、政宗は制服姿のままでRPGを始め、だらだらと今の今まで続けていた。集中力が欠けているのか普段は簡単にクリア出来るはずの中ボス戦で負けてしまい、緑のラグの上で大の字になると、苛立ちをコントローラーにぶつけるかのごとく放り投げてしまう。
 ゴロンとうつ伏せに反転して、喉を潤すためにペットボトルの水を一口飲んで、クセみたく携帯で時計を確認する。
 今の時刻は23時。ちょっと早いけど、もうこの制服のまま不貞寝してやろうか、と思いつつ、トイレに立った矢先。
 薄暗い廊下の奥、玄関のドアノブが独りでにガチャガチャと左右に動いている。
「ひっ!」
 体が竦んだ。
勿論、鍵がかかっているので開きはしないのだが、激しい戦慄を背中に覚える。
「何何っ…、こんな時間に…。」
 護身用にそこいらに置いてあったモップを持って、息を潜め、玄関に一歩、また一歩と近づく。
―――南無っ!
意を決し、恐る恐るドアを開けてみると、雪崩れ込むみたく飛び込んできたのは。
「せ、先生っ!」
 政宗は、俊敏な動きでモップを放って、倒れてきた彼を両腕でガシッと抱きとめる。
「ええっ…!あれっ、ここ…っ。」
 顔を上げてこちらを見た幸村の頬が尋常じゃ無く真っ赤だ。
「あの、部屋、間違えちゃって…。ごっ、ごめんなさいっ。」
 狼狽えている幸村から、ツンと香ってきたのは、らしくない強い酒の匂い。
「し、しつれいしましたあっ!」
「だ、大丈夫?なんか足元が…。」
 政宗の腕に掴まりながらも、玄関から出て行こうとする幸村の足がおぼつかない。心配になった政宗は、幸村の二の腕を引っ張って引き留める。
「と、とりあえず、センセ、中に入って。」
 半ば強引に後ろから両腕で抱え込んで、幸村をずるずると引きずるみたいに部屋まで連れてゆく。
 ちょこんと置物みたく正座で座った幸村の、コートとネクタイをとりあえず外して、襟元を弛める。
「はい、水。これ飲んで。」
 政宗が自分の少し飲みかけのミネラルウォーターを渡すと、ごくごくごくと、喉がどんだけ乾いていたのか、500mmのペットボトルの水を一気に飲み干してしまった。プハーッと清涼飲料の宣伝みたく、気持ち良さげに息を吐き出した幸村に、政宗は苦笑するしかない。
「センセ、もしかしなくても、酔っぱらってんの?」
「おれ、よっぱらってらいでごらるよ〜。」
 呂律が回ってないし、いつもはパッチリの目が眠たげにトロンとしてる。眠気に負けまいと、ごしごしと拳で目元を擦っているけれど、100人中100人が酔っていると証言するだろう症状だ。
 あざといくらいに、そんな可愛い仕草をする幸村に、クスッと政宗は優しい表情で笑みを零す。
 やっぱり愛らしい人。久々にまじまじと見たけど、容姿も動作も、存在そのものがすごく可愛くて、見ていると、なんだか知らないけれど、胸がきゅうと圧縮されるように締まってきて切なくなってくる。
「ほら、もう寝た方が良いよ。」
 はい、バンザーイして、と声を掛けつつ、スーツの上下とYシャツを脱がして、タンクトップとボクサーパンツ姿にしてしまう。子供みたいに幸村はされるがままになっていて、政宗に完全に全てを委ねている。
 こんな可愛い22歳の男性教諭なんて、普通いないっしょ、と、苦笑を零した政宗は、1人ごちる。
「ほら、移動するぜ。」
 よっこいしょ、と、膝裏と脇の下に腕を差し入れてお姫様抱っこして、ベッドまで連れて行くと、壊れ物を扱うようにシーツの上に下ろした。
「じゃあ、おやすみ。」
―――俺はシャワーでも浴びてこよっかな…、と、あれ、あれれ?
政宗は屈んでいた上体を起こそうとするけれど、幸村はそのまま政宗の首に両腕でしっかり巻きついた状態で離れようとしない。
「ゆ…、幸、村?」
 その行動の意味が分からなくて、ドキドキしながら、初めて下の名前で呼んでみる。
「まさむねどの…、俺…。」
「ど、どうしたの?気持ち悪い?」
「なんで、そんなに、おれに、優しいので?」
 政宗の首元に、微熱っぽいおでこを擦りつけながら、泣きそうな上ずった声で、ぼそりと幸村は声を漏らす。
「えっ…。」
 そんなの、答えは、簡潔明瞭、「大好きだから。」
しかも、下心がありまくりだから。なんて、言えない。言えるわけない。
「そんなに優しくされると・・・、俺・・・俺っっ・・・。」
 少し幸村の腕の拘束が緩んだので、逆に政宗は幸村の背に両腕を回し、上体を支えながら、彼の顔を覗き込む。大きな漆黒の瞳が、今にも涙腺崩壊するように、ウルウルしてきていた。
「もう、寝た方が良いよ、幸村。ベッド、使って良いから。」
 今の自分は、必死に理性と戦っている状態で、一刻も早く、光の速さで離れないと、ヤバいことになりそうで。このまま何もかもなし崩しに、ヤッテしまいそうで。もう、白状すると、こんな状態の先生とこんな密着しているだけで、自分は欲望を抑えきれないんだって!!
「いっちゃ、やらっっ…、眠れないっ…。」
RPG調で言えば、渾身の一撃をくらった気がした。こんな反則に可愛いの、我慢出来るわけねえだろ!最初から無理ゲーだってえの!
 理性がぶっ壊れてしまった政宗は、幸村の汗で張り付いた前髪をはらって、もうすでに気持ち良さを実感済の唇に、チュッと音を立ててキスをしてしまった。触れると、んっ、と、幸村は身じろぐ。
「…きもち、いいでござる…、まさむねどの、もっと…、キス…して…。」
 甘ったるい声で、そんなことをたどたどしく言われて。「まさむねどの」と呼ぶ声も、舌足らずで甘えてくる感じで。
「もう、貴方って人はっ!」
 酔っぱらったこの人の破壊力は凄まじすぎる。天性の小悪魔だ。もう、こうなりゃ自棄だ。どうにでもしてくれっ!
「ゆきむら。」
「んっ…。」
 互いに震える唇同士を寄せて、一度艶めかしく触れ合って。そして、もう一度、もう一度と、回数を重ねるごとに、キスは情熱的になってゆく。口を開いてピッタリと重ね合わせて、アイスを舐めるみたく、くちゅくちゅと互いの舌を舐めて、水音を立てて絡め合わせる。
「んんっ…、あ…、ふっ…。」
「…ふあ…んっ…。」
 過去ここまでのキスはしたことないくらいに、激しい互いの呼吸を貪るくらいの口づけに、政宗も眩暈がしてきて、頭を数回振った。
 コクンと、幸村の喉が、甘い唾液を飲んだのか、小さく鳴った。
「んっ・・・、なんか熱いっ・・・。」
 幸村は言いながら、自分のタンクトップの裾を持って捲る。
「ええっ、ちょっ!センセっ…!そんなことしたら駄目だってっ!」
 もうこの人、絶対酔っぱらったら駄目な人だ。こんな無防備な人、ヤバすぎる。
 俺の理性を片っ端から粉々にして、どうしたいの?
 政宗は、邪魔っ気に自分の制服のネクタイを襟元から引き抜いて、そこらに放り、続いて長い指でカッターシャツを第3ボタンまで寛がせながら、幸村の耳元に顔を寄せて囁く。
「これから、どうして欲しい?」
「わかんなっ…。」
 熱いとうなされるみたいに繰り返す幸村に、ドキドキ爆発しそうな心臓を抑えながら、タンクトップを完全に捲り上げて、ピンク色の乳首も含め、胸全体を丸出しにする。
「くそっ、ここも可愛いしっ…。」
緊張が半端無くて、体中が心臓になってしまったの如く、ドクンドクンと指先まで過敏になって。こんなの、童貞みたいじゃん。中坊じゃあるめーし、俺・・・。こんなに、馬鹿みたいに、初めてみたいに、ドキドキしまくってる。
静かな室内に、ハアハアと互いの荒い呼吸音が、生々しく聞こえる。
「ん・・・。」
 政宗は誘惑に負けて、思わず、滑らせた掌で、立っている薄桃の乳首を押し潰すみたく触ってみてしまう。
「んんっ!」
 途端、首を反らして、眉間に皺を寄せた幸村は、大きく息を飲む。
「はあ…、や・・・、やらっ・・・んっ。」
 甘い吐息を漏らしながら、水分多めの涙目で、こちらを見てくる。
 駄目だ、もう、止まらない。酔っている先生に対して、自分はなんてことをしているんだろうと思うのに。されど、その背徳感が、ますます興奮を高めてゆく。
 カチッと、自分の中で何かスイッチが音を立てて入ってしまった気がした。
「ここが、良いの?」
 反応を見ながら、親指と人差し指で左の乳首をクリクリと摘み、右側の尖りを、執拗に舌で嬲り、てらてらに透明な涎まみれにしてしまう。
「ひああっ!んんっ!」
 先ほどまで舌で舐っていた赤く腫れあがってきたそれを強く音を立てて吸い上げると、快感が強すぎたのか、悲鳴みたいな嬌声を上げて、幸村は身を左右に捩った。その初めて聞く、幸村のエッチな可愛い甘い声に、ヤバイ、ヤバすぎるって、と、爆発しそうなほどに股間に熱が急速に集まってくる。
 何かに急かされるように、政宗は幸村のボクサーパンツのゴム部分に手をかけて、一気に下げてしまう。
「やあっ・・・、ふああっ…、やんっ!」
 露わになったそこは、色が薄くて、綺麗な色をしていて。
男同士なのに、そこを見ても嫌悪感なんて全く無くて、逆にますます興奮度が高まってくる。
「幸村…、ここ、もう、たってる。そんなに、乳首が気持ち良かったの?」
「ひあっ…、んんっ…みちゃ…やだあっ…あっ…。」
 もう先走りの液でベタベタなそれを、生温かい精液をくちゅくちゅと絡めながら、両手で包み込んで数回扱いてみる。
「ああっ…、んん!あっ…。」
 むくむくと掌の中で成長してゆく幸村自身を欲望に塗れた目つきで眺めながら、政宗はペロッと舌なめずりした。
 もっともっともっと気持ち良くさせたい。自分の手で乱れさせたい。そんな感情が高ぶってきた政宗は、次の行動に移る。
 確か興味本位で見たネットで知り得た知識によると、男同士の行為では、お尻を使うらしい。脱力している幸村の白い脚の間に体を滑り込ませ、筋肉質だけど細い両膝を大きく開かせて、双丘をムニッとわし掴んで、その奥の秘部を目の前に晒す。それをまざまざと見てしまった政宗は、ゴクンと唾液を飲み下した。
 今度は、自分の中指を唾液が滴るほどに舐ると、その蕾に準備万端な指を這わせた。
「んんっっ!」
 つぷと、力を込めて第2関節まで入れてしまう。
「…気持ち悪い?ごめん・・・。」
 入り込んだ幸村の中は、アルコールのせいもあるのか、熱くて焼けるように熱すぎて、自分の指を奥へ奥へと淫らに誘う。
―――本当に、初めてなのか?
 そう疑ってしまうほどに、幸村は自分が与える刺激を従順に受け止めて、感じ切った恍惚の表情を見せている。
「ふあ…、んん…、あっ…、なんか…へんっ・・・ふあっ・・・。」
 キスが初めてなら、Hも初めてのはずなのに、痛みとか嫌悪とか全く感じないのか、臀部を探られても気持ち良さげに息を乱す幸村に、何だか胸の奥がチリッと焼けてきた政宗は、指を増やして、少し乱暴な動きで内部を割り開いてゆく。
「んん!」
 もっともっと、と強請るみたく、こちらを熱っぽく見てくる幸村に、政宗も感染したみたく体温が上がってきた。
 内部が徐々に柔らかく解れてゆく。もったりと絡んで指をきゅきゅっと締め上げる。蕩ける中はクラクラするぐらいにトロトロ状態で、こんなの、自分自身を入れてしまったらどれだけ気持ち良いんだろう。想像するだけで、体の芯がじんわりと熱くなる。
「まさむねどのお…。」
 幸村は政宗の首にぎゅっと巻き付いて甘えてくる。
「幸村。」
 耳たぶを舐りながら、低く名前を呼んでみる。
「やらっ…、なまえ、呼ばれるとっ…。」
「感じちゃう?」
「まさむねどのにっ、呼ばっ…れると、なんか…、耳が…こそばゆい…のでっ。」
「ゆきむら、ゆきむら、ゆきむら。」
「やんっ…、もお…、呼んじゃ、やらあっ・・・。」
 柔らかくて湿った中を探っていた指が、ある1点を掠った時、幸村がヒクンッと体を揺らした。
「あっ!ああっ!やっ、やあっ…。」
 喘ぎ声の質が変わって、いやいやと首を左右に振る。
「ここが良いの?腰、ゆらゆら動いてる。」
「ひんっ!あっ…そ、そこおっ…やら、なんかっ、へんっ!んんっ…。」
 逃げないように腰を押さえつけて、ぐちゅぐちゅと突き入れるみたいな動きで、そこを重点的に刺激する。
「んんっ!…ふっ…んん…。」
 唇で、甘く啼いている口を呼吸ごと塞いでしまう。幸村も舌を出して、懸命に絡め合わせてくる。
「ねえ、後ろ、気持ち良い?」
 音を立ててキスをしながら、問いかける。
「俺の指、後ろで3本も咥えてるけど。」
「ひあっ!わ、わかんな…、んん!」
 ぐりっと内部のその部分を抉るように触ると、幸村の腰が大きく跳ねた。
「ひあああっ!」
「このまま、前、触んなくても、イケそう?」
「あんっ!ああっ、もっ…なんかっ、やあっっ!」
 幸村は、涙とか唾液とか色んな液でぐしゃぐしゃな顔で、訴えかけてくる。
「すっげえ気持ち良さそう…、ねえ、目がトロンってなってるよ…、幸村。」
「はんっ…、もお…、こわいっのでっ…、なんか…おれえっ…。」
―――もお、俺…、駄目だ、中に入れてしまいてえ…。
 何もかも失う代わりに、この胸に燻る激しい想いを、ぶつけてしまいたい。
 けれど、自我を失っている彼を犯すような真似、さすがにそれは出来なかった。どうしても、傷つけてしまうのだけは出来なくて、理性を総動員して、気持ちを留める。
「おれ…、おれっ…、もおっ、らめえっ!…ひあっ。」
 もう限界が近いのか、幸村の体が小刻みに震えてきた。切羽詰まったように、目元を赤くしてこちらを見てくる。
「大丈夫だから、怖くないから。イッテ良いよ。」
 しきりに後ろを指で犯しながら、汗ばむ額に優しく口づけて、ぎゅっと指を絡ませて繋いだ左手に力を込めた。
「んんっ!ひあっ、も、もおっ…いくっ!…んああっ!」
 一気の上りつめて、ひくひくっと体を強張らせた次の瞬間、くたんと四肢を弛ませた幸村は、ベッドに倒れ込んでしまう。
「幸村、大丈夫?」
「…………。」
 聞こえてくるのは、安らかな寝息。
「え、センセ?あの…あのー。」
 覆い被さっている政宗は、ぺちぺちと軽く頬を叩いても反応無く、スースーと気持ち良さげに完全に寝始めた幸村に、先ほどまでの高揚の真逆、虚無感が湧き上がってくる。
「あの、俺の…、ほったらかしなんだけど…。」
―――何やってんだ、俺。
 惚れてしまった者の弱みか。
のそのそした動きでベッドの上で胡坐をかくと、体を伸ばして、床に置いてあったティッシュをとり、汚れた手を乱雑に拭き取って、ついでに幸村の体に散らばっていた色んな液も綺麗に拭き取って、服の乱れを直した上で、おまけに風邪ひかないように掛布団を掛けてあげて。
そして、今日数えきれないくらいに放出しただろう溜息を、ハーッと大きく下に吐き出す。
「俺、誰に対しても優しいわけじゃねえし。先生にだけだよ。」
 本当の自分は、ずる賢くて、見栄っ張りで、すげえ弱いんだよ。
「分かってくれよ、なあ。先生…、俺のこと、どうか、好きになって…。」
 頬をゆるゆると撫でながら、顔中にキスの雨を落として、切なげに、でも愛しげに、感情を押し出すように囁いて。
 そして、空しい事この上なく、その後政宗は、トイレに駆け込むはめになった。


[*前へ][次へ#]

9/22ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!