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小説
その2
「なら、生徒会のメンバーを説明すると…。」
 佐助は全員揃ってるな、と、全体を見回して。
 まず、そこにいるあなたの知り合いっぽいのが生徒会長の伊達君で、ソファで寝ころんで漫画読んでるのが副会長の長曾我部君、あの机で黙々と仕事してる眼鏡が会計の石田君で、その左隣で神経質な視線をこっちに送ってきているのが書記の毛利君、あの戸棚で書類探ってんのが体育部長の徳川君で、えーっとその辺で今存在感一番大きい、胴体も大きいのが文化部長の前田君ね、との、かなり端折って超簡潔化した佐助の指さしながらの説明に。
「よろしくお願いします!」
 覚えたのか覚えてないのか、それでも元気いっぱいに幸村は挨拶する。皆は、あ、ども、みたいな感じで心持ち会釈した。
「じゃあ、俺様達も式の準備があるから。真田センセには、月曜日の放課後から引き継いで、実質顧問の仕事始めてもらう。引継ぎ完了までは俺が代行続けるんで、何かあったら俺にね。じゃあ、行きましょうか。」
「はい。」
引継ぎというのは実は、前の顧問の先生が産休で、半年前から佐助が代理を務めていたのだ。器用な佐助は、急なバトンタッチだったが、無事ここまで務め切った。
「もう、猿飛先生が、正式に顧問になったらいいんじゃないですか?自分達も、その方が、仕事がやりやすいし。」
 今まで押し黙っていた三成が、資料から目を離さず、声に温度が無い口調で告げた。
 和やかだった空気が、ピシッと音を立てて凍ってしまって。
「おいおい、三成。お前…。」
 すかさず、気の良い家康が、三成の背中を叩きながら声を挟む。佐助は苦笑しつつ頭をかきながら言うしかない。
「そうは言っても、俺様だって、弓道部と放送部の顧問を兼任してるからねえ。それに、真田センセなら、この個性的なメンバーの中でも渡り合って行けそうだよ。」
「俺、一生懸命頑張ります!」
 熱血に幸村は、グッと気合を表すように胸の前で拳を握る。
「じゃあ、もう時間無いから、急ぎましょ。」
 高い位置にある掛け時計を仰いで時間を確認した佐助は、急かすように、そんな幸村の背中を押しながら戸口まで先導する。出て行く幸村が一度振り返ったので、政宗はひらひらっと手を振ってしまう。それに気付いた幸村が笑顔で手を振り返してくれた。
―――やばい、俺、顔、にやけてっかも…。
これからうちの顧問の先生だなんて、誘う理由も出来たじゃん!なんてラッキーすぎる。さっきのもやもやが嘘みたいに飛んで行って、政宗は別人みたいに晴れやかな顔になる。
「おい慶次、女の先生じゃなくて残念だったなあ。」
「………っ。」
「なーにそんな震えてんの?そこまでショックだったのかよ?」
 俯いて小刻みに震えている慶次の肩に手を置きながら、元親はその顔を覗き込みつつ、からかった。
「政宗!政宗ってば、あの先生とどういう関係なんだよ!」
 元親を振り切り、いきなりにじり寄ってきた慶次に、喜びに浸っていた政宗は一瞬怯む。
「え、なにっ?」
「お隣って、何?」
 いつになく真剣な顔つきの慶次は、政宗の両肩をすごい馬鹿力で掴み、逆に質問で返してきた。
「お隣はお隣だろ。部屋がお隣なんだよ!馬鹿、顔近すぎ!」
「今度遊びに行っていい?」
 間髪入れず、慶次は真剣にお願いする。
「なんでだよっ、突然。そんな不純な理由では駄目に決まってんだろっ!」
 噛み付きそうな勢いで迫ってくる慶次に、若干圧倒されつつ、それでも政宗は応戦する。自分の不純さはこの際棚に置いといてだ。
「何何?慶次、女の子に振られまくって、とうとう男に鞍替えしたの?ホモなの?」
 苦笑気味の元親の何気ない言葉が、流れ弾みたいに、自分の胸に突き刺さってくる。
―――ホモってなんだよ、俺は男が好きなんじゃねえよ!あの先生が…っ。
「良いんだよ!あの先生可愛いじゃん!俺は男が好きなんじゃ無くて、あの先生が気に入ったんだよ!」
「え?」
 代弁するかのごとく、慶次がほぼ自分の心の中の声と同じことを言ったので、一瞬ビビった。そんな驚いた政宗の反応に、慶次は自分のことをひかれたと勘違いして。
「なんだよ、政宗まで。じゃあ、政宗と元親は、センセに手出し無用だからね!」
「たっ!頼まれたって出さねえよ!おっ、男なんかにっ!ホモじゃねえっつうのっ!」
 政宗は顔を上げざま、売り言葉に買い言葉で、そんなことを力いっぱい言ってしまう。言った後に猛烈に後悔しても、後の祭りだった。
「そんな、偏見は駄目だぞ、政宗。」
 悪気無く追い打ちをかけたのが、いつの間にか傍にいた家康で。
「それに、確かに、可愛い先生だったな。わしも好きだぞ、あの先生。」
「家康っ、やっぱそう思うよね。」
 友よっ、という感じで、家康の手を両手でとる。
 それを机に座ったまま、アホくさという感じで冷めた目つきで見る元就と、全然顔も上げず干渉しない三成と。
 そして、未だ、頭を抱えて絶賛後悔中の政宗と。
 皆の想い渦巻く中、ホームルーム開始五分前のチャイムが気の抜ける感じで鳴り響いた。


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あきゅろす。
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