[携帯モード] [URL送信]

小説
その1
「今日から、新任の女のセンセが、生徒会の顧問になるらしいよっ。」
 慶次は机に乗り上げてくる勢いで、鼻息荒く、そう言ってきた。生徒会室に入ってくるなり、そんな話題を切り出してくる慶次に、案の定。
「転校生を喜ぶ小学生かよ。」
 ソファに体を預けて今週のジャンプを読みふけっていた元親の横槍が入る。
「だって、少ない恋愛チャンスだよ!うちは男子校なんだから、これぐらいしか出会い無いんだから!!」
「…万年発情期か、おめえは。」
 漫画を読みつつ話に付き合う元親も、慶次のテンションの高さに、何だか疲れてきたみたいだ。
「なあなあ、誰が最初に、携帯アドレスGET出来るか競争しない?」
 慶次は、黙々と自分のするべきことをしている生徒会の仲間に、笑顔で提案する。右指を1本立てて、このゆびとーまれ、とか、ノリノリで言ってみたのに、誰もとまってくれない。さっきから無視されまくりで、だんだん凹んできたらしい慶次は、泣きそうな声を出す。
「おーい、なんで、皆、俺の話、聞いてくれないんだよー。」 
「お前な、遊んでる場合かっ。今日、始業式だぞ!明日は入学式だし、忙しいだろうが!!」
「酷いよ、元就〜。」
 慶次の騒がしさに、元就は我慢出来ず顔を上げて怒鳴るけれど、もっとひどいのは、無関心を決め込む、慶次の隣にいるはずの三成。粛々と作業中の彼は、書類に目を落としたままで、顔さえも上げない。
「まあまあ、元就。そうカッカするなよ。」
 元就の後ろを通り過ぎながら、なだめるみたく、家康はその憤慨気味の肩をポンポンと叩く。
「慶次も、皆の邪魔になってるぞ。」
「家康はのる?」
「わしは…うーん、いいや。すまんが、そういうの、苦手。」
 家康は苦笑気味にそう言って、首を振った。
「おーい、政宗、政宗はカケにのるだろ?女の子、大好きだろ?」
 げ、火の粉が飛んできた、と、政宗は見るからに嫌そうな表情をする。
「好きじゃねえし。人を色情魔みてえに言うな。それに、のらねえよ。どんなセンセかも分かんねえのに…。」
 女の子大好きなんて変な噂立てやがって、と、政宗は、ぶちぶちぼやきながら口を尖らす。
さっきから政宗は、皆から少し距離を置くように、離れた窓枠に座り、朝の登校風景をぼんやりと眺めている。
―――あーあ、こんな爽やかな朝なのに、すっきりしねえ。
 何だか、先週から、胸のもやもやがとれない。心に巣食ったように居座っている。
理由は分かっているんだけど、分かってんだけどっ!と、やるせなさを滲ませて、肩を怒らせた政宗は、窓枠を握った指に力を込める。
―――そんな顧問のセンセがどうこう言ってる場合じゃねえし。隣の部屋の、あの人をどうやって食事に誘うかで、俺は悶々と悩みまくってる現状だし。
 いきなりピンポン鳴らして引かれたら困るし、でも鳴らさないと、きっかけも作れないし。でも、引かれるのは、絶対嫌だし。
1週間前から、この、無限ループだ。
そして、これみよがしに大きく、ハアとため息。
―――あーあ、ホント、あの人、可愛かったよなあ…。
 瞼を閉じると、あの屈託の無い笑顔が脳裏に浮かぶ。
 こんなことは初めてだ。気になる子が出来たら、いつもなら当たって砕けろで、まずはデートに誘っちゃうのに。こんなに憶病になるなんて、まさか、本気で好きになりかけてんの、俺…。
なんか、鬱々と考えすぎて、病気になりそうだな、と、誘う勇気もない、自分の不甲斐なさに政宗はガックリと肩を落とす。
「よう男前!何、1人で百面相してんだよ。」
 いきなりぬっと視界に表れた元親に、ビクンと肩を揺らした政宗は、素の自分を見られたことへの恥ずかしさから、がなりたててしまう。
「ええっ!見んなよっ!馬鹿元親っ、あっち行けよ!!!」
「おおこわ、政宗さんってば、生理中ですかねー。」
 口に掌を当てておどけた様子で離れてゆく元親に、政宗は真っ赤になっている顔を右手で隠しながら、チッと舌打ちをする。
「えええ、皆、ヤル気ゼロなの?なら、俺が新しいセンセ、もらっちゃうからねっっ!」
 未だ慶次は、その話題を引きずっていたらしい。
 その時、コンコンと、入り口の戸がノックされた。
「おーっす。皆、さすがに忙しそうだなあ。」
 そこには、片手を上げつつ、生物担当教師の佐助が目に眩しい白衣を翻して、立っていた。
「えええ?新しい生徒会顧問って…、佐助センセなの?女の可愛い新任…。」
 勝手に期待して、勝手にショックを受けた慶次は、呆然とした感じで、語尾辺りは棒読みで読んでしまう。
「残念でしたー。女の子じゃないよ。」
 苦笑しつつ佐助は、頭をポリポリかいて、そう告げる。
そして、「可愛い」っていうのは、当たっているかもしれないけどね、と、独り言みたいに追加した。
「入って、入って。」
 廊下で待っている彼に、佐助は、にこやかに手招きする。
「は、はい。あの、俺…この度。」
 未だに絶賛悩み中の政宗は、耳半分で新任センセの挨拶を聞いていたが、されど、その声に聴き覚えがあって、ゆるりと振り返る。
「ここに赴任して来た新任の教師です!よろしくっ!」
 そこまで言って、彼は、思い切り頭を下げた。
 これでもか!と、折られた背中といい、この、無駄に元気いっぱいの声といい。
 何だか、デジャブを感じて、慌てた政宗は、窓枠から転げ落ちそうになる。ここは二階とはいえ、結構な高さ。おっとっと、よろめいて、室内に無事着地する。
「真田、幸村と言います。まだ教師になりたてのヒヨコみたいなものですが、お手柔らかに…。」
「あ、あれ…。」
 政宗は、わなわなと唇を震わし、指を指す。
「もしかして、お、お隣さん、ですよね?」
 その声に気付いて、こちらを見た幸村は。
「あーっ!この前の、割引に詳しい人!」
 と、思わず大きな声を出した。


[*前へ][次へ#]

2/22ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!