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小説
その9
☆☆☆☆
「着替え、俺のしかねえけど。」
 自分の住むマンションに着いた早々、政宗はこんなことを言って、グレーのトレーナーと綿の短パンを渡してきた。
「え?」
「俺が飯作っている間に、シャワー浴びて来いよ。」
「えええ?」
 幸村は目をパチクリして驚きつつ、ポカンと政宗を見上げた。
「し、…シャワー?」
 たどたどしく問い直す幸村に、うん、と、政宗は、無駄に爽やかな笑顔で頷く。
「そのまま俺ん家泊まってけば?家帰っても、誰もいねえんだろ。夜1人じゃ寂しいだろ?」
「…そ、それは…、そうでござるが。」
 幸村は、解せぬ感じで、柔軟剤で良い香りのする服を抱き閉めたまま、うーんと唸っている。
「それとも、俺と一緒に風呂入るか?背中流してあげるけど。」
 少し屈んで耳元に直接吹き込むようにそんなことを言われて、幸村はひゃっ!と耳を押さえる。
「そそそそ、それは、絶対無理で!」
 狼狽え気味に言った幸村は、顔を熟したトマトみたいに真っ赤にして、ブンブンブンと首を何度も振る。
「うそ、冗談だよ。」
 それはまだ早いよな、まあ追々、と、政宗は1人ごちるみたくぶつぶつ呟いて、風呂場へ案内してくれた。
 
☆☆☆☆
「これ…、どうやって外せば良いんだろ。」
 自分の体のはずなのに、女性化してグラマーすぎる体を直視できない幸村は、ボウタイとシャツ、チェックのスカートを脱ぎ終わって、純白のブラの所で、口を一文字にして、むむむと真剣に悩む。
 そうだ、こういう時は女の子に聞くべきだろうと、思い。
「いつきちゃん、おーい、いつきちゃんってば。」
 小声でいつきに助けを求めようと宙に呼びかけても、うんともすんとも全然返事をしてくれない。
「うーん…。」
 仕方なく自分で何とかしようと、おぼろげな記憶の中の、CMとかの服を脱ぐシーンの見よう見まねで、右手を肩越しに背中にまわそうとして、プチッとどこかの軟骨が変な音を立てたと思ったら。
「わわわわっ!」
あまりに仰け反りすぎて、体が平衡感覚を失って、ドシンッと豪快な音を立てて床に尻餅をついてしまった。
「ゆき、ど、どうした?開けるぞっ!!」
 その隣の部屋まで伝わってきた凄い振動音に、政宗は驚いて、お玉を持ったままの状態で台所から飛んできて、扉を破る勢いで入ってくる。
「大丈夫か…、て、おい?」
「せんぱい…。」
 脱衣所の床に、ブラとパンツというあられもない姿の幸村が、泣きそうな顔して座り込んでいて、政宗は二重にも三重にも驚いてしまう。それは、転んだ状態のままで、まるで、グラビアポーズをとっているかのような挑発的な姿勢になってしまっているからだ。
「おいおい、あんた、なんて格好してんだよ。」
 政宗は、それ、セクシーすぎんだろ、と、苦笑いをしつつ、屈んで手を差し伸べてきた。
「ぬ…。」
 下着姿の幸村は、政宗の手を取って起き上がりながら、声を漏らす。
「ぬ?」
「ぬ…ぎかた…、わからない…ので…。」
 幸村の発した言葉は、恥ずかしすぎるのか、外国人が覚えたての日本語を言うように、かたことになってしまった。
「脱ぎ方が、分かんねえの?…これ?もしかしてブラジャーの?」
 かああああと、顔を湯気が出るほど真っ赤にして、コクリと、心細げに自分を抱き閉めている幸村は頷く。しばらく考えるように間を置いて、政宗は、クスッと笑った。
「ホント、ゆきって面白いな。今までどうしてたの?まさかノーブラ?」
「それは…。」男だったからブラなんて必要無いとも言えず、口ごもる。
「じゃあ、外してやるから、向こう向けよ。」
 あんなに悩んでいたのが馬鹿みたいに、至極簡単に、パチンと後ろのホックを外されて、締め付けから解放されてホッとしたのも束の間。
「すっげえ、肌、すべすべだな。」
 チュッと背骨あたりに軽く口づけられて、ヒッと幸村は体を竦ませる。
「ひあああっ、あの!」
「わりい、驚かした?」
 そう言いながらも、政宗の手は、そろそろと幸村の肩甲骨あたりに触れている。吸い付くような木目細かい肌触りに、このまま触っていたくなる。
「ああああ、あのっ、せんぱいっ…。」
「あのさ、あんまり、こんなこと、他の男に頼んで欲しくねえんだけど。」
「こんなことって?」
 たわわすぎる胸を両手で隠しながら、きょとんと首を傾げる無垢すぎる幸村に、ふうと、怒りたいのか笑いたいのか、なんとも複雑な表情で政宗は溜息をつく。
「あぶなっかしいってえの。よく今まで襲われず、無事に済んでんな。」
 政宗は、何も分からず見上げてくる幸村の前髪を梳くように触りながら、とつとつと告げる。
「可愛い幼い顔なのに、こんなHな体してて、それなのに無防備すぎるなんて、男に襲ってくれって言ってるようなもんだろ。まわりを翻弄しすぎだぜ。」
「…俺、そんなつもりは…。」
「もう、あんたを24時間、傍に置いときたい気分だよ。」
 子供にするみたくポンポンと頭を撫でると、政宗はひらひらと手を振って、脱衣所から出てゆく。パタンと扉が完全に閉まって、その場に残された幸村は、今まで自分がつけていたブラを持ち上げて、これどうやってつけるのだ?と今度はつけるときのことを心配し始める。
「しょーがない。」
 脱いだ下着を、着てきたシャツとスカートの間に挟んでカゴの中に置くと、幸村は熱く火照ってしまった頬に手をそっと添える。そこは、まだじんわりと熱を持っていて、それどころか新たに生まれてきていて。
―――俺、すっごい、ドキドキしてる…。
 心臓が、肌を突き破りそうに、鼓動を早めている。
 先輩って、誰に対してもあんな感じなんだろうか。誰に対しても、こっちが誤解するようなあんな甘い言葉を告げてきたり、すごい近い距離で触れてきたり…するのかな。俺よりも、先輩の方が、翻弄してると思うでござる…。
「…さっさとシャワー入ってしまおう。」
 意味不明の嫉妬みたいな、心に息苦しいほどの闇が襲ってきて、ふうと重くため息をついた。


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あきゅろす。
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