[携帯モード] [URL送信]

小説
その2
 結局、政宗おすすめという洋画を立て続けに3本観てしまって、終わった時には深夜1時を回っていた。
「じゃー、とりあえず寝ようか。」
 普段くっきり二重の目がしょぼしょぼしてきた政宗は、ピンで留めた頭をかきつつ言った。
「おやすみなさい。」
幸村が、先ほどまで抱き枕にしていたものを頭の後ろに置いて、いつも通りにソファベッドへ横になろうとしていると、いつの間にか傍に立っていた政宗に、起こすように腕を引かれた。
「今日は一緒に俺のベッドで寝ようぜ。小せえ時みたいに。」
「え?でも、暑いでござるよ。」
 政宗のは、少し大きなシングルベッドだ。高校生男子2人で眠るとなると、かなりくっついて寝ることになる。
「クーラー、ガンガン効かせてるから、大丈夫だよ。」
 先に寝転がった政宗が、入れと言わんばかりに、タオルケットをめくり上げている。後ろ髪の紐を解いた幸村が、その隣に滑り込むと、やっぱりぎゅっと体を密着させることになった。
「落ちるぞ、もっとこっち寄れって。」
 政宗の手は、自然に幸村の腰と肩に回っている。
「昔は、佐助も含めて、3人でここで寝てたよな。」
「ああ、懐かしいでござるな。」
「幸村が真ん中でな、3人で手え繋いで寝てたっけ。で、佐助が怖い話して、幸村泣かしてんの。」
「あ、あれ…、佐助じゃ無くて、先輩だったでござるよ。」
「え、俺だっけ?ひでえな、小さい時の俺。」
 悪びれず政宗はケロッとした感じで言うと、じゃあ電気消すぞ、と、蛍光灯をリモコンで消した。
政宗は、こちら側に寝返りを打って、ますます体をくっつけてきて、そして、確認するように聞いてくる。
「なあ、本当に、この夏休みの間に、童貞捨てるわけ?」
「俺、決心したので!一皮も二皮も剥けた、大人の男になるでござるよ!!」
「こんな近くでおっきな声出さなくても、聞こえてるよ。」
 幸村の大声に耳がキーンとなったのか、政宗は苦笑気味に声を出す。
「ご、ごめんなさい。」
 幸村の腰を抱えるように回っている政宗の手に、少し力がこもって。
「なあ、それって、俺じゃ、駄目なわけ?」
 いきなり、真面目な声色になって、政宗は、そんなことを聞いてきた。
「え?」
「彼女とか、恋人とか、そんな相手じゃないと駄目なのか?」
「ええっ。」
 幸村は、まさか、政宗がそんなことを言ってくるとは思ってなくて、体温をカーッと上げて、狼狽え気味に言葉にならない声を出す。
「やっ…あの…、その…、は、」
「俺、結構、上手いぜ。幸村のこと、すっげえ気持ち良く出来ると思うんだけど。」
「お、男同士なんておかしいでござる!!そんなの…出来ないっ…。」
 想像するだけで恥ずかしすぎる幸村は、ブンブンともげるくらい首を横に振って、全力で拒否する。
「男同士だって、出来るんだよ。ここ、使えば…。」
 スルッと政宗の手は下へ下りて、薄い幸村のお尻をいやらしい手つきで撫でた。
「ひあっ…、は、は、破廉恥でござる!そ、そんなの…、恥ずかしい…。」
 声を裏返して、顔を真っ赤にした幸村は、腕を突っぱねて、政宗と距離をとる。
「…分かったよ。ごめんな。」
「えええ…あの…、せんぱ…。」
 あっさり諦めたのかと思われた政宗は、幸村の肩を布団へ押し付けて、上から圧し掛かってきた。
「なあ、キスは、良いだろ?」
 幸村の前髪をかき上げながら、唇同士が触れ合いそうなすごく近い距離で、政宗は言う。
「幸村の唇って、柔らかくて、甘くて癖になるんだよ。」
「ううう、そんなこと…っ。」
 言う相手を間違っているんじゃないかと思うほど、女の子を落とす時みたいに、甘ったるい声で囁く政宗に、幸村は顔を真っ赤にして、鼓動を早める。
 そんな良い声で告げられると、背筋あたりがぞくぞくしてきて、たまらない。
 吐息交じりに、政宗は低い声で、幸村に告げた。
「ゆき、舌出して。」
「んん、先輩…っ。」
 幸村が泣きそうな顔で、真っ赤な舌を出すと、政宗はそれを自分の舌で絡め取って、自分の口の中へ誘う。ゾクンと背中を揺らした幸村は、ぎゅっと政宗の首に両腕を回して、抱きついた。
 何度も角度を変えながら、2人は飽きることなく、長くキスを続ける。
 そして、息が上がった政宗は、唾液で濡れた唇を、ペロリと長い舌で舐めた。
「駄目だ、これ以上キスしちゃうと、また、たっちまいそうだから…って、もう俺、実際たってんだけど。」
「ええええっ!今日は、もう、だめでござるよっ!」
 先ほどの破廉恥すぎる行為を思い出して、幸村はあわあわと慌てふためく。
「大丈夫、今夜は、もう変なことしねえから。あんまり、がっつくと、幸村嫌がりそうだからな。」
 チュッと名残惜しそうに、おでこにキスを一つ落として、政宗は仰向けに寝直す。幸村もタオルケットを顔まで被って、火照る顔を隠そうとした。
 室内は、空調の音以外、聞こえない。しーんと静まり返った部屋のせいで、自分の高ぶる心臓音が政宗に聞こえてしまいそうで、呼吸するのも苦しくなる。
「俺…、そろそろ、気持ち吹っ切って、彼女でも作ろうかな。」
 真っ暗な闇の中、政宗はボソリと宙に呟いた。
「あの…先輩の好きな人って…どんな人なので?もしかして、俺の知っている人でござるか?」
 おずおずと聞いてきた幸村の方を、じっと考え込むように見つめて。
 しばらくの沈黙の後に、政宗は、声を出した。
「幸村も、すっげえ、知ってるやつだよ。小さい時から、知ってる。」
「え?」
 思ってもみない相手に、幸村は、目を限界まで見開く。
「どんなヤツって…、目が大きくて、小動物みたいに可愛くて、子供みたいに純粋で単純で、でも真っ直ぐで、温かいヤツかな。」
 政宗は、薄く笑みを零しながら、思いつくまま、特徴を上げてゆく。
「今でも、すっげえ、誰よりも、大好きだよ。もう、他には、何もいらねえ。それぐらいに、好きで好きで、たまらないんだ。」
「そ、それって…。」
―――もしかして、もしかしなくても…、佐助?
でも、佐助って、単純かな?でもでも、温かいし、真っ直ぐだし。人の価値観は分からない、けど。
 ぐるぐる悩んだ後、訳分からず、思わず子供みたいに泣き出しそうになって、たまらなくなって、幸村は政宗の首元に、ぎゅうと、きつく抱きついた。
「どうした?突然。甘えてんの、幸村?」
「俺…俺、先輩のこと、応援するで、ござるよ。」
 泣き声に近い声で、幸村は、政宗のタンクトップの胸に顔を埋めたまま、告げる。
 政宗も、佐助も、自分にとっては、すごく大事な存在で。2人が幸せになってくれるのなら、自分は…、自分の気持ちを殺すことだって、出来ると思った。
「え?」
 政宗は、数回、瞬きをして。
「幸村、ホント、ありがとな。」
 何もかもを受け入れたような穏やかな表情をした政宗は、くしゃりと幸村の頭を優しく撫でた。シャンプーしたての髪から、良い匂いがして、政宗は、少し眩暈を起こしたかのごとく、頭を軽く振った。
「でも、俺さ、幸村に恋人出来たら、彼女作るわ。」
「お、おれはっ!」
「それまでは、俺は、ずっと甘えん坊の幸村の傍にいる。」
 俺、彼女なんて、恋人なんて、先輩以外、そんなの、いらない。そんなの、作りたくないよ。ずっと、先輩が、自分の傍にいてくれるなら、それだけでいいのに。
 そんな我儘な言葉が、叫びだしそうに喉まで出かかって、幸村はそれをゴクンと飲み込んだ。
そんなの、先輩の足枷みたいだ。ずっと先輩の傍にいて、先輩の人生を邪魔するなんて、駄目だ。
 切なくなって、苦しくなって、想いが爆発しそうになって、幸村は、決意する。
 せめて、思い出だけでも、作れたら。心にも体にも、一生残る、記憶が欲しい。
「先輩…俺…、決心ついたら…その…、して、もらって、良いでござるか?」
「え?」
 幸村は、政宗の胸板に縋りながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。酸欠になりそうになりながらも、切なげに声を発する。
「俺、初めては、先輩が…良い…でござる。」
「えええ?」
 政宗はいきなりの幸村の心変わりに、本気で驚いている。あまりの驚愕具合に、ベッドから素早く起き上がっていた。
「い、いいのか?俺で。」
 政宗も、らしくなく、どもる。
 コクンと、幸村は大きく縦に頷く。薄暗いここでも、それは、政宗に伝わった。
「俺、いつまでも、幸村が決心してくれるまで、待つよ。」
 政宗は、幸せそうに微笑んで。
「すっげえ、嬉しい。」
 ふうと、政宗は感慨深げに息を吐いて、幸村をもう一度しっかりと抱き寄せる。
「俺の、大事な、幸村…、おやすみ。」
 政宗の温かい腕に包まれて、幸村は幸せな気分で、夢の世界へと落ちていった。
「おやすみなさい…せんぱい…。」


[*前へ][次へ#]

3/14ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!