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小説
その1
「びっくりしたぜ〜、突然、泣きそうな声で電話してくるから。」
 不服そうな表情で抱き枕をぎゅうと抱き閉めている、未だ口数少ない幸村の腰掛けているソファに、滑り込むように座りながら、苦笑交じりに政宗は言う。餌付けみたいにプリンを幸村の掌に置きながら、自分は冷蔵庫から持ってきたキンキンに冷えたペットボトルに口をつけた。白のタンクトップにGパン、前髪を斜めにピンで留めて、黒縁メガネというラフな格好の政宗なのに、そのまま清涼飲料のCMにでも出れそうな爽やかさだ。
 自分の部屋で受験勉強中だった政宗の携帯に電話が入ったのは、1時間前。そして、そのまま部屋に扉をぶっ壊しそうな勢いで幸村がやってきたのが、15分前。
 友達とプールに行っていたのは知っていたけれど、そこでそんな下ネタな話をしていたとは。
「何、友達に、そんなことでいじめられたのか。幸村は。」
 2歳年上の幼馴染は、小学校の時から変わらぬ子ども扱いで、良い子良い子と幸村の頭をなでなでする。幸村は政宗に頭を撫でられるまま、はむっとプリンを口に放り込みながら、目を伏せる。
「そんな初心な所が、幸村の良いところだけど。」
「俺、こんな自分から、この夏、脱却したいでござる。」
 フンと鼻息荒く幸村は宣言する。ぐっと握った拳は、スプーンを曲げそうな勢いだ。
「俺は、そのままの、可愛い幸村でいて欲しいけどな。」
 濡れた口元を拳で無造作に拭いながら、優しい眼差しで、プリンを堪能中の幸村を眺める。
「なあ、いいじゃん、女と経験無くても。そんな気に病むものか。俺は幸村が一生童貞でも、全然馬鹿にしねえよ。」
 涙目の幸村は、キッと隣の政宗を睨む。
「先輩は…、勿論、経験があるのでござろう?」
「…何だよ、勿論って。」
 幸村は、プレスチックで出来たスプーンを、リスみたいに前歯で齧って。
「か、彼女、切らしたことないし…、1号だけじゃなくて2号も3号もいるし。」
 小学校から部活で政宗と先輩後輩の間柄の幸村は、その幼い頃から、それはそれはモテモテだった政宗の交際遍歴を思い出しながら、とつとつと告げる。一緒に帰っていても、女の子からは幸村の存在をまるで見えてないように大無視で、告白されまくり、プレゼント貰いまくりだった。確か、最初に、彼女が出来たのは、小学校4年生。『もう幸村とは帰れないんだよ。』と言われて、隠れて泣いて帰ったしょっぱい記憶だ。あの時は、近所のお兄ちゃんを盗られた気持ちだったんだと、思っていた。けれど、今思えば…。
 昔の記憶に思いを馳せていた幸村は、肩を揺さぶられ、無理やり現代に引き戻された。
「おいおい、幸村。それ、どこから情報?2号3号って…何だよ、仮面ライダーみたいに。」
 目の前のテーブルに置いてあったファッション雑誌をぱらぱら捲りながら、政宗は口を尖らせる。
「今も、やっぱりいるので?」
 じんわり目頭に涙を溜めた幸村は、抱き枕に顔を伏せたまま、こんなにカッコ良く成長した幼馴染に恋人がいないわけがないと、答えのわかっている問いかけをした。
「いねーし。」
「へ?」
 弾かれたように、顔を上げた。
「もう半年以上になっかな…。俺も結構干からびてる感じ?」
「ええええ?」
「気付いて無かったのか?」
 どんだけ人に対して鈍感なんだ、と、政宗は苦笑する。
「幸村が超敏感なのは、剣道と、その剣道の師範のおっさんと、お菓子の話だけかよ。」
 空になったプリンを幸村の手の中から奪って、ごみ箱に放物線を描いて放り投げる。
「幸村と放課後、部活が終わったら、一緒に帰ってただろ?それに休みの日も、こうやって宿題みてやったりしてんだろ!夜も毎晩電話してたし、メールも頻繁にしてんのに。何考えてんだよ。彼女いて、そんな後輩優先してたら、おかしいだろうが。後輩と私、どっちが大事なのつって即行フラれてるって。」
「なら、どうして、作らないので?」
 高校生なんて、一番良い時期、恋をしないと勿体無いとか、今青春を謳歌しないといつするのとか、慶次も言っていた気がする。
「作れねえの。」
 斜め上を見ながら、少し、んんと考えて幸村は言う。
「今年、…受験、だからで…?」
「違う。半年前に、やっと気付いたんだよ、俺、すっげえ好きなやつがいるって。自分に対して、騙し騙し誤魔化してきたのに、気付いちまった。気付かない方が、良かったのかもしれねえけど…。」
 長い睫毛を伏せて、少し寂しそうに、表情を曇らせる。
「へ…へえ…、先輩にそんな相手が…。何故、告白、しないので?」
 平然として言ったつもりだったのに、何故だか、声が震えている。
―――そんな大切な相手がいたなんて、初めて知った。こんなに、近くにいるのに。鈍感って言われても、しょうがない。
「しねえ。」
バッサリと政宗は断言する。
「相手に、俺、半年前にこっぴどく言われてんだよ。恋愛対象になんないって。好きって気持ちに気付いたと同時に、フラれてるようなもんだ。」
「…え。」
「もう、この話は無しな。」
 なんか気分が重くなる、と、政宗はくしゃりとまた幸村の頭を一撫でして、テーブルから落ちそうになっているDVDのパッケージを目に停める。
「そうそう、気分変えて、映画でも観ようぜ。面白い洋画、借りてきたんだった。今日も泊まってくだろ。そう佐助にもメールしておくから。」
 佐助も同居人の幸村がいねえほうが彼女連れ込みやすいだろ、と、下世話なことを思いつつ、カチカチと携帯を操作する。
「は、はい。」
「あ、幸村、そこのリモコン、再生ボタン押して。」
 雑誌の下に敷いてあったピザのちらしを横目で見つつ、政宗は思案する。
―――夕飯は、ピザで良いか、デザートはアイスとチョコを常備しているし。
 政宗の両親は、両方医師で今日は夜勤だ。まあ、親がいても、幸村のことを、実の息子の政宗以上に可愛がっているから、平気なんだけれども。
「はい。」
 体を伸ばして、テーブルの隅っこに追いやられていたリモコンを取って。
 32インチのTVに向かってONした瞬間に。
「え?」
「あ。」
 同時に2人は、動きを止めて固まってしまう。
 液晶画面に裸の女性が映し出されて、大音量で女性の官能的な喘ぎ声が辺りに響く。
何故だか、臨場感たっぷりのAVが始まってしまったのだ。大きな胸に、むっちりとしたお尻がバーンとドアップで目に飛び込んできた。
「うわあああああっ!」
 顔を俊敏な動きで背けた幸村は、脳にはっきり残る残像を何とか消そうと、両手をバサバサと宙をかくように動かしている。
「しまった…、昨日のデッキにいれっぱ…。」
「な、な、何を観てるんでござるかあ!!!」
 幸村は頭の天辺から出ているような声で、一軒家全体に響く大きさで叫び出す。
「AVくらい観るだろ。健全な男子高校生なら。」
「破廉恥すぎでござるよ!!」
 わあわあ叫び続ける幸村の肩に手を置いて、涼しい顔で政宗は画面を注視する。
「あ、ここから、確か、フェラだったな。」
「は、は、早く消して下されっ。」
「まあ、いいじゃん。このまま、観ちまおうぜ。これ、ちょっと主演女優が幸村に似てんだよ。パッケージ観て思わず借りてきちまったんだった。」
「はあ??似てない!!」
 間髪入れずに、大否定だ。
「観てないくせに、何で分かるんだよ。超能力持ってんの?おら、顔、画面に向けろ。」
 ぐぐぐと両手でこめかみを挟むように持って、頑なに拒否する幸村の頭を、テレビの方へ向かせようとする。
「けど、幸村の方が、100倍可愛いけどな。」
「可愛いなんて言われても、う、嬉しくないでござる…。」
「あれ、幸村?何、目え閉じてんの。」
 幸村の顔を後ろから肩越しに覗き込むと、注射前の子供みたいに、眉間に皺を寄せてきつく目を閉じている。
「ううううー。」
「なあ、もう一度聞くけど、幸村、AV見たことねえの?」
「こんな破廉恥なもの…、誰が…。」
「馬ー鹿、ちゃんと、見ろって!」
 後ろからおんぶおばけみたいに抱きつきながら、政宗は命令口調で言った。
「い、む、無理っ!」
「そんなこと言ってっと、女と経験なんて、一生無理だぜ。」
「うー。」
 チラッと幸村は画面をちら見して、かあああと幸村は顔を耳まで真っ赤にする。バフッと政宗の胸元に顔を伏せた。
「恥ずかしいのでっ!」
「なんだ、その反応、可愛すぎるだろ…。」
 幸村の両頬に手を添えて、おでこをコツンと当てながら、政宗は言い聞かせる。
「ほら、別に、俺しかいねえんだから。幸村がどんな顔して観てようが、何も恥ずかしくねえだろ。それに、幸村の言ってた初体験っていうのは、こういうことを幸村が女とするんだぜ。観ねえと勉強にならねえよ。」
「…べんきょう?」
「そう、勉強。幸村が大人になるための、勉強だよ。」
 諭された幸村は、険しい表情で、10本の指の隙間から、恐る恐るDVDを目に映し。
 幸村は、ひあ!とか、ふあ!とか、変な素っ頓狂な声を出しながら、それでも何とか逃げ出さずに、見続ける。
「ゆーき。」
「ひあああっ!」
 突然、大きな掌で薄手のズボンの上から股間に触られて、幸村は、いっそう大きい声を上げて、体を派手にビクンと揺らす。
「何だよ。幸村、たってんじゃねえか。」
「わ、や、や、やめてくださっ…。」
「女の裸に反応するなんて、健全な証拠だな。ほら、俺もたってっし。」
 と、耳元に息を吹き込む感じで熱っぽく言いながら、幸村の掌を先導するように自分の股間に持ってくる。
―――何だ、これ!大きすぎるっ…。
 自分のそれと比べて、一回り以上大きい政宗のそれに、幸村は愕然とする。
「わざわざ、触らせないでくだされっ!!うわ…っ、んん!」
 綿パンの上から、形に沿って触られて、幸村は大きく息を飲む。
「幸村、こっち向いて。」
「え…せんぱ…?」
 突然、圧し掛かってきた政宗に、半開きだった唇に唇を押し付けられて、幸村は驚く。
「ん!」
 自分の舌に、唾液を纏わせた生温かい舌が絡んでくる。
 ちゅっちゅと音を立てながら、しつこくしつこく舌を絡ませたキスをされて、幸村は舌も脳も痺れてくる。
「ふあ…んんっ…。」
 幸村は無意識に、一生懸命舌を伸ばして、政宗の動きについていこうとする。唇が離れた時には、幸村の眼は熱に浮かされたように、虚ろになっていた。
「やべ…、まじ止まんねえ…。」
 今にも泣き出しそうに顔を歪め、頬を赤らめ、息を乱し、甘ったるい声で啼く幸村を見て、ぞくぞくと何かが背筋を這い上がってくる。
「せんぱっ!な、なに…んんっ!」
 腰を揺らして抵抗するけれど、ズボンを無理やり脱がされて、トランクスまで足首まで下ろされて、完全に立ち上って液を零してしまっている股間が、政宗の眼前に露わになる。
「んあ!さわっちゃ…だめ…だってぇ…っっ。」
 直に触ると、白濁した液が手に絡んできて、にちゃにちゃと幸村にとって耳障りな水音が零れてきた。
「駄目なの?こんなに液出してんのに?」
 耳たぶを舌で嬲られながら、意地悪く言われて、幸村は羞恥心で胸が張り裂けそうになる。
「や、やだあっ…恥ずかし…、ううっ…あ!」
「俺も、こんなんだし。」
 政宗は自分のそれをボクサーパンツから取り出して、幸村のそれにぴったりとくっつける。お互いの熱を、政宗が上下にしごき出した。
「ひあ!あっ…あっ!あんっ…だっ!…だめえっ…ふああっ。」
――擦れ合って、信じられないくらい、気持ち良い…っ。
 こんな体験初めての幸村は、抗えない快楽に、素直に流され始める。
「一緒に、気持ち良くなろうぜ…、ふっ…。」
「あふあ…あっ…あつっ…んあ…、ああ!」
 生理的な涙が滲んで、声が止まらなくなる。
 TVからのAV女優の喘ぎ声と自分の声がシンクロする。
「あっ…ああっ…あんっ…ふぁあっ!…。」
はあはあとお互いの荒い息が、狭い空間に溢れる。
 邪魔っ気に眼鏡を外し、政宗はリモコンを左手で取ると、パチンと画面を消してしまう。
「幸村の可愛い声の方が聴きたい…。」
「ふえ…ああっ!」
 手馴れた様子で、幸村のTシャツを首元までたくし上げると、すでに立ち上っている胸のピンク色の突起に、跡がつくほど強めに吸い付く。
「あん!ああっ…、あっ…。」
「ここ感じんの?AVの女優みたいに?」
「あっ…ちがっ…、んんっ…あんっ…んん。」
 ソファに深く押し倒した幸村の唇を塞いで、息継ぎのために薄く開いた上下の歯の隙間から、舌を奥まで忍ばせた。幸村の口内を隅々まで、丹念に愛撫しまくる。
 お互いの先走りの液が政宗の手首まで零れ落ち、腕がねとついてきた。
「せんぱ…っ…んあっ、も、もお…。」
 涙を溜めた目で、幸村らしくない色っぽい表情を見せられて、切なげに名前を呼ばれたら、もう駄目だった。もう、こっちも辛抱たまらなくなる。
「イッて良いよ。俺も…もう、やべえから。」
 政宗は自分の限界の近さからか、動かす手もすごく早くなった。
「ふああっ!」
「う…っ。」
 幸村は目を潤ませて、更に大きな声を上げると、ふるふるっと体を震わせ、政宗の手に放ってしまった。政宗も時間差で、一気に上りつめて、自分の掌に欲望をぶちまけた。

☆☆☆☆
 政宗は、テーブルに置いてあったティッシュで汚れた手を拭きながら、ぐったりして背を丸める幸村を見遣る。
「ひ、酷いでござるっ!こんな破廉恥な…っ!」
 顔を真っ赤にして、抱き枕にぎゅううと抱きついている幸村の頭を、また宥めすかすように、くしゃりと撫でて。
「よーしよし、ごめんって。悪かったって、機嫌直せよ。ほら、こっち向け。」
 政宗は甲斐甲斐しく、幸村の下着とズボンを穿かせ始める。
「でも、こんな触りっこなんて、普通だぜ。知らねえの?幸村ってば。」
「え?そ、そうなので…、普通なので…。」
 素直すぎる幸村は、政宗の言葉を信用してしまったようだ。
「だって、気持ち良かっただろ?」
「は…はい…。」
 うう、と、恥ずかしそうに俯いた幸村は、ぼそぼそと返事する。
「また、今度、しようぜ。幸村。」
 上機嫌の政宗は、疲れ切っている幸村の肩を抱くと、その唇に、チュッと軽く唇を押し付けた。
「あの、先輩…、キスも、普通なので?」
 瞬間湯沸かし器のごとく、ボボッと顔を赤らめた幸村に。
「ああ、普通だよ、外国ではな。」
 眼鏡をかけ直した政宗は、綺麗にウィンクをして見せた。


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