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小説
プロローグ
 その時の状況はこうだった。
 悲しいかな、女の子っ気も無く男4人でプールへ行った帰り、ハンバーガーショップへ立ち寄った。
「なあなあ、皆はどうなの?経験したことあるの?」
 ハンバーガーを食べ終えたらしい慶次が、突然前触れなく話をふってきた。そんな彼の行動は日常茶飯事だったのだが。
「な、何をでござるか?」
 泳いでお腹が限界に空きすぎたのか、幸村は片手にハンバーガー、もう一方にはナゲットと忙しない感じでパクついていた。そんな幸村を、誰も盗って逃げねえから落ち着けよと元親がたしなめる。
話に食いつきが悪い3人にじれったさを感じつつ、慶次が続ける。
「夏と言ったら一つしかないじゃんっ!」
「…夏?夏ねえ…。」
 連想ゲームみたく、考え込んだ元親は、腕を組んで首を捻る。
「それは、お祭りでござるか?」
 お祭り好きなのか、幸村の眼は爛々と輝いている。多分、お祭り屋台のイカ焼きや焼きそばや綿あめに心惹かれるんだろうが。
「…夏休み…、バイトか?わしは今年の夏はコンビニでバイトしているぞ。」
 ズズーッと、店内同様よく冷えたシェイクを思い切り啜りながら、家康は告げる。
「お前ら、夏と言えば、海釣りだろうが!」
 俺、最近、四国に里帰りしたんだけど、太平洋でこーんな大きな魚吊り上げたぜ。と元親は、わざわざ立ち上がり両手を大きく広げて自信満々に言ってのける。幸村と家康は、へーっと尊敬のまなざしで元親を見上げた。
「もうっ!違うよ。何なの、ボケてんの、わざとなのかい?3人とも!」
「何なんだよ、はっきり言えよな。」
 もったいぶる慶次に、とうとう元親が痺れを切らして言った。
「夏と言えば!そう、アバンチュールですよ、皆さんっ!」
 西の宗教団体の教祖みたいな口調で言った慶次に。
「「「あばんちゅーる?」」」3人の声が、高音、中音、低音と見事にハモル。
「あばんちゅーるって何?」「アバンチュールとは一夏の恋さ。恋の冒険、火遊び。もう高校生だろう、俺たち。女の子とのそういう体験があってもおかしくないよ。」
「ハイヘンッテ?」
 頬袋を満タンにするようにポテトを三本咥えたままの幸村は、本当に何も知らない感じで問いかける。
「そーれーは、Hなことだよ、幸村。童貞を卒業するってこと。」
 つんつんと幸村の鼻を突きながら、慶次は説明する。
「えっち?」
「は?」
 元親は無作為に選んでポテトを口に運んでいた手が止まる。その横の家康はブーっとシェイクを盛大に噴いた。
「んんっ、…なななな、何を言ってっ!破廉恥っ!破廉恥でござるぅっ!!!」
 ポテトを喉に詰めた幸村は両手を振り、顔を真っ赤にして狼狽える。
「幸村こそ何言ってるの、早い子なら小学校高学年が経験年齢だよ。本当に天然記念物みたいな子だな〜。」
「!!!」しょ、しょうがくせいっ!?
幸村はもう声も出ないくらいショックを受けている。
「まあ、幸村の場合、女の子と2人きりになるだけで無理ゲーだよね。これじゃあ、初体験なんて夢のまた夢だね…。高校生にもなって好きな相手もいないだろうし…。」
 ハアと大げさに溜息をつかれて、幸村は憤慨する。
「馬鹿にするな!俺だって、好きな、相手、くらい…。」
「え?いるの?幸村ってば。」
興味津々の慶次が幸村の肩をガバッと抱いて引き寄せ、根掘り葉掘り聞こうとする。
「うっ、そんなの内緒だっ!」顔が点火したみたいに赤くなっている時点で、内緒でもなんでもないのだが。
「ねえ、それは同じ学校?同級生?」「同級生ではないっ!」「じゃあ、上級生だ。」「!!」
「そ、そう、なのか?経験していないと、おかしいのか?」
 黙っていた家康が、首に巻いていたスポーツタオルで汚れた口元を拭いつつ、思い詰めたみたいに声を発する。そんな家康に、苦笑交じりに元親がフォローを入れる。
「おいおい家康、そんな慶次の話、真面目にとるなよ。そんなの、全然おかしくないって。」
「じゃあ聞くが、元親、お前はどうなんだ?」
 至極真顔で家康は元親を見遣る。ぼりぼりと頭をかいた元親の答えは。
「俺は…まあ、そりゃあ、あるけど。」
「えええええええっ!」
 幸村と家康がテーブルに手を突き同時に立ち上って叫ぶ。その声は店内中に反響して、周りの客からの好奇の視線を浴びまくる。そして、2人は顔を見合わせて、恥ずかしそうにすごすごと座った。


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あきゅろす。
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