小説
その13
冬休み明けの、ある日。さぶいさぶいと元親が手を擦り合わせるくらいに、凍える寒い日。今年一番を何度も更新しているが、とりあえず、今の段階では、今年一番に寒い日。
「…三成ー、おまえさ、なんか校内で、すっごいすっごい噂になってるけど…。」
すっごいを2回強調してきて、何事か、と三成は胡散臭げに、元親を一瞬見て。
1時間目が自習ということで、三成の前の席を陣取った元親が、参考書片手にそんなことをコソコソと耳打ちしてきた。
「何が?」
三成は、いつも通り問題集を開きながら、元親の話を耳だけで聞く。
「…おまえが!クリスマスの日に!1年生の女子と大きなモミの木の下でキスしてて、あげくの果てに校内行事のパーティすっぽかして、その子を連れて消えた、と…、人目もはばからずラブラブしてて、目も当てられなかったと…。」
ドンと机を叩きながら、懇切丁寧に、流れている噂を説明してくれる。
周りの生徒は五月蠅いなと思いつつも、受験が迫っていることもあり、それどころでは無く我関せずと言った感じで勉強している。
「ふーん…、で?」
別に訂正するまでも無く事実だな、と、三成は内心思い、問題集を解いてゆく。まあ、何でか、男子が女子になってるけど…まあ、それぐらいは良いか。
「で…、て、おまえ…。」
「別に、その通りだし。」
三成のその(ある一つのこと以外)何事にも動じないそっけない返事に、元親はフウと苦笑いでため息。
「まあ、良いけど。アイツの笑顔も元に戻ったしな。」
「そうだ、元親…。」
「あ?」
「色々、気を使ってくれて…、本当にありがとな。」
そうボソリと呟くと、顔を上げて、フワッと小さく元親に微笑んだ。
高等部に入学以来3年間一緒にいて、多分三成の初めての笑顔に、ウッと元親は固まってしまう。その衝撃度は高く、希少価値も高く、ご利益がありそうだ。
そして、三成の肩を軽く叩くと。
「…まあ、来年も同じ大学だし、よろしく頼むわ、な、三成。」
と言って、ニヤッと笑い返した。
桜咲く春は、きっと、すぐそこだ。
To be continued
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