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小説
その8
放課後、どんな仮装が良いのか机上で考えても良いアイデアが浮かばないので、とりあえず視察をかねて街へ出てみることになった。
まずは、大型量販店のコスプレコーナーへ来ていた。
うーんと、大量のコスプレ商品の前で、腕組みをした三成が顔をしかめている。
「無難に、クリスマスらしくサンタクロースとかか?」
 と、三成は目に留まったそれを一着手に取ったが。
「先輩、あのそれ、スカートなんですけど…。」
 隣の幸村が心配げに声をかける。三成が右手に持っている服は確かに、赤いワンピース型のサンタ服だ。
「じゃ、これとか?」
 リラ○クマの着ぐるみを選んで、幸村の前に当ててみる。え、着ぐるみ、と、幸村は複雑そうな顔で笑う。
「あ!これも幸村に似合いそうだな。」
 次は、正統派ブラックの、スカート丈の短いメイド服。
「これも、いいな。」
 そして、紺のセーラー服。
「これなんかも、なかなか可愛いかも。」
 今度は、ハードルが若干上がって、赤と白のコントラスト眩しい巫女服。
三成のセレクトが段々マニアックに走って行っている。特に最後の巫女服が気に入ったのか、裏の商品説明を真剣な顔で読み始めた。
「へえ、この巫女服、ゲームのコスプレなのか…。確かにスカート丈が短いな。戦国もの…面白そうだな、このゲーム…。じゃこれにするか、幸村。」
「先輩!!!」
 たまらず幸村が声を挟む。
「え??」
「ううう、何故、俺のは、女物ばかりでござるか?」
 顔を真っ赤にして、眉毛をハノ字にして、泣きそうな表情で幸村は聞いてくる。
「えあ…、えっと…、まあ…うん。悪かったよ。」
 女顔で可愛くてすごく似合うから、と言うのは、高校生男子の立場上、やっぱり嬉しくないだろう。
「じゃ、やっぱり、このクマの着ぐるみか?」
「ううう。」
 堂々巡りになりそうな展開に、自分にカッコいい服は想定範囲外なのかと、ガックリと幸村は肩を落とした。

☆☆☆☆
「それにしても、難しいな。」
 結局何も買わずに、量販店を後にして、繁華街を歩いている。
「ちょっと、仮装の件は、元親に相談してみるか…。」
「でも、そうすると、俺、魔法少女になっちゃうかも…。」
 少し微妙な顔をして幸村は言う。さすがに、ピンクのフリフリは本人的に許容を超えているらしい。三成的にはそれでも全然OKではあるのだが。
「もう6時か…飯でも食って帰るか…。」
 目の前にあった、見て下さいと言わんばかりに大きいデジタル時計を確認して、三成は呟く。
「クリスマスが近いからか、どこも人が多いですね。」
 きょろきょろと幸村はおのぼりさんみたいに周りを見ながら、人の流れを気にしている。
「ああ、あっちの方に、大きなクリスマスツリーがあるみたいだな。」
目に留まったのは、ビル2階建に相当する巨大なクリスマスツリー。ファッションビルの毎年恒例の飾りつけらしい。今年のは白い枝に電飾が真っ青で、夜空に浮かぶ情景が神秘的で、かなり目を引くツリーになっていた。
「だから、カップルだらけか。」
 三成は心底嫌そうに眉根をひそめる。人前でベタベタしやがって、と、少し僻みが混じったようなものが、口から出そうになった。
人にぶつかるたびに、すみませんと謝っていた幸村が、突然自分の隣からいなくなった。
「あれ…、あれ、どこだ、幸村?」
人の波に押されて、どこかへ行ってしまったみたいだ。
「先輩!待ってくださ…。」
 声と手の指先だけ見えている状態で、人の波に逆流みたいに流されていってしまっている。
「幸村っ、大丈夫か?」
 三成は人を掻き分け声がする方へ戻り、人と人の間で身動き出来ず立ち止まっていた幸村を無事見つけると、とりあえず柱がある場所へ2人で避難する。
「ごめんなさい。なんか、今日は、本当に人が多い…。」
 三成は幸村にスッと自分の右腕を差し出す。
「腕にしっかり捕まってろ。」
「え?」
 躊躇する幸村の手を持って、腕を組む形で、無理やり自分の腕を持たせる。
「見失ったら…。」
 険しい顔して言いかけて、止める。
 いつもだったら、めんどくさいとか、迷惑とか、そういう言葉をつい付け加えてしまう。
 三成は、それらを全部飲み込んで、少し恥ずかしそうに言い直す。
「こうしてたら、離れ離れにならないだろ。それに、くっついていると温かいしな。」
「はいっ。」
 嬉しそうに返事した幸村は、ぎゅうと抱きつくように、腕にしがみついてきた。
 その仕草が、柴犬みたいですごく可愛いと、三成は目を細めた。
「じゃ、行くぞ。」
 レストラン街へ行こうと、エスカレーターを昇ると、最後尾とプラカードを持った従業員の人と出くわす。その前に視線を流すと、先頭が見えない長い長い列。
「あ、あれ、なんの行列ですかね。」
「ああ、なんか観覧車みたいだな。」
 元親が、彼女が出来たら一緒に来たいな〜とか言っていたのを、耳半分で聞いていたのを思い出す。
ここのビルの屋上に観覧車があって、ファッションビルの目玉みたいになっていた。観覧車から、ここら一体だけでなく、遠くの街のクリスマスイルミネーションまでが堪能できるという。さすが、クリスマスが目前だけあって、凄い行列。多分、軽く見積もっても三十分待ちだろう。こんなの好き好んで乗るやつが…。
「先輩、アレ、乗りますか?」
 隣にいた。しかもなんかノリノリだ。こちらを覗き込んでくる顔も興味津々で、イルミネーションが反射しているだけかもしれないが、目がめっちゃキラキラしている。
「ええ?あれ、すごい待つぞ。」
 ぐいぐい迫ってくる幸村に、少し及び腰で三成は言う。
「待つのも、どんなに時間がかかっても、先輩と一緒なら楽しいでござるよ。」
 幸村はエスカレーターから降りると、列のある方へ向かって腕を引っ張って連れて行こうとする。
「もう、…しょうがないな。」
 三成は苦笑気味に笑って、引きずられるように、幸村の後を追った。


☆☆☆☆
「じゃ、約15分間の、空の旅をお楽しみください。」
 従業員がマニュアル通りに笑顔でそう言って、外からガシャンとドアを閉めた。
上がり始めた時に、まずビルの電光掲示板の暖色系の光の洪水。目がチカチカするほど、間近に見えた。
観覧車がゆっくり上がってゆくと、少し遠くに自分達の通っている学校が姿を現す。
「あれ、うちの学校じゃないか?」
 三成の視線の先を、幸村は振り返って見た。
「あ、本当だ。まだ、誰かいそうですね。」
「…まあ、クリスマスパーティはもうすぐだからな。手作りで衣装作る生徒もいるらしいし。」
「へえ、それは凄いでござるなあ…。」
「白雪姫とかシンデレラとか、クラスの女子が作るって言ってたな。幸村も対抗して、赤ずきんちゃんにするか?それぐらいなら、作れるかも…。」
「む、無理でござる…、赤ずきんちゃんは…。」
 ええ、似合うし可愛いと思うけど、と、三成は残念そうにもらして。
「そう言えば、幸村の友達は3年生に誘われなかったのか?」
 と、話題を変える。
「え?…うーん。」と悩んで、「俺の周りには、あまり色気が無いので…。」
自分を含めて年がら年中剣道ばかりなので、と、幸村は苦笑する。
「そういえば、三成先輩は、1年生や2年生の時は、女子に誘われたり…。」
 幸村は、少しドキドキしながら聞いてみる。
「え?…ああ、全部断ったから、覚えてないが。」
「ええええっ!全部断ったんですか?」
 目をパチクリさせる。慶次先輩が聞いたら、そんなチャンス勿体ない!と、憤慨しそうだ。
「ああ、悪いが私は、そういうの全然興味無かったし…。」
「へえ…。」
 幸村は、少し何か考えているふうに、ぼんやりとそう呟くと、目線を夜景に戻した。
 ゆっくりゆっくりとゴンドラは上がってゆく。
「うわあ、すっごい綺麗だ。」
 幸村が頂上付近で、感嘆の声を出す。
 足下が透明のために、四方360°イルミネーション。どこを切り取っても眩いばかりの光の街だ。確かに1時間待ったかいはあった。けれど、三成は実は夜景を見ずに、無邪気に喜んでいる幸村ばかり、気付かれないようにこっそり見ていた。口が自然に緩んでくるのを、必死に押さえている。
「あの先輩…、なんで、俺で良かったんですか?」
 突然、幸村はそんなことをおずおずといったふうに聞いてきた。
「え?」
「だって、先輩は、すごくモテるって聞いて…、なんでパートナーが俺だったのかなと…。」
 幸村は窓に両手をついてそちらをじっと向いたままで、少し頬を赤らめて、そう聞いてくる。
「そ、それは…。」まさか最初は人違いだったなどと言えず、三成は黙り込んでしまう。
一時の沈黙が狭い空間で流れる。
「ごめんなさい、理由なんて、別に良いです。…俺は、嬉しかったですから。」
 こちらを向いて、ニコッと、幸村は破顔する。
「え?」
「俺、三成先輩に選んでもらっただけで、幸せですから。」
 そんなこと、言うなよ。
 そんな、幸せだなんて…。
 自分には、そんな言葉、勿体なさすぎる。
「馬鹿…。」
胸が苦しくなった三成は、幸村の隣に移動すると、ぎゅっとその体を両腕で抱き閉めた。
「え?」
「ごめん…気持ち悪かったら、突き飛ばしてくれ。」
 幸村の耳元で、低く囁く。
 もう、駄目だ。
 男だからとか、世間体とか、くそくらえだ。
 自分は、もう、そんなの、どうでもよくなってしまっている。
 そんなちっぽけなものよりも、大事なものに出会ってしまった。
 三成はやっと自分の中に生まれている感情の意味に気付いた。
 自分は、自分は幸村のこと…。
「…せんぱ?」
 小さく驚いたように声を漏らした幸村の頬に手を添えると、ふわりと唇に触れるだけの優しいキスをした。触れた指が温度差で分かるくらいに頬を火照らせた幸村は、案の定、面食らった顔をしている。
「いや…か?」
 三成は顔を真っ赤にして、右手で顔を隠す。
「いやじゃ、…ないです…いやじゃないっ。」
 幸村は切なげな泣きそうな顔で、ふるふると首を振る。
「もっとしても、大丈夫か?」
「は…、はい。」
 幸村はキスを待つように、目をぎゅっときつく閉じて、顔を心持上げる。
 三成は眼鏡を外して、はりの良い頬をゆっくりと撫でて。
 おそるおそる唇同士を触れ合わせた。
 すると堪えきれなくなって、ちゅっ、ちゅっと何度も感触を確かめるように啄んで、ペロッと下唇を舐めた。
「んん…っ。」
 顔を首まで真っ赤にして、鼻で息を懸命にしている幸村の下顎を持って。
「口、開けて。」
 急かすように、顔を赤らめた三成は、こそっと囁く。
 震えながら小さく開いた唇から、舌をスルッと入れ込んで、驚いたように奥に逃げる幸村の舌を絡め取って吸い上げて、くちゅくちゅと水音を立てて、長くキスを続ける。
「ふぁ……、…んんっ…。」
 ずっと続くキスの間、幸村はぎゅっと両手で三成の背中にしがみついていた。
 幸せすぎて、泣きそうになった。こんなに心が満たされた気分になったのは、生まれて初めてで。
目の前のクリスマスイルミネーションが滲んで、ただの光の泡みたいに見えた。


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