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小説
その7
 2時間目と3時間目の間の休み時間。
目線を下に持っていくと、校庭で体育の授業が始まる所だった。寒波到来の寒空の下、ジャージ上下という姿は、すごく寒々しい風景だ。ジャージの色が青なので、1年生だろう。この時期だと、マラソンか持久走か。どちらにしろ、心身ともに最悪コースだ。
1年生?もしやと思って探してみると。
「あ、いた…。」
 三成はボソリと呟いて、ますます窓に顔を近づける。
 群衆の中でも、幸村を見つけられるようになってしまった。寒さなんてなんのその、楽しそうに校庭を走り回っている。
 なんだ、元気いっぱいだな、と、その微笑ましさにクスッと笑ってしまった。
「おーい、三成。珍しい表情して、何見てんの?」
暇を持て余していた元親が、傍に寄ってきて、窓際に立った。
「私は、何も見てない。」
 早業で三成は、机の上に目線を戻す。
「そっか?それで三成、で、あれから幸村と仲良くやってるのか?」
「…何の話だ。」
 幸村の名前が出て内心少し動揺する。今さっきこっそり上から覗き見してたのがバレタのかと思った。
「ちゃんと仲良くパーティの件、話し合ってんのって、言ってんだよ。」
「…まあな。」
 三成はろくに返事をせずに、参考書をパラパラ開き、目線を走らせ始める。
「なあ、あいつ、可愛いだろ?なんか、こう、天然で。柴犬みたいな感じ?」
「その天然のせいで、色々迷惑かけられて困ってる。」
「迷惑って?」
 三成は眼鏡の真ん中をクイッと押し上げ、口をへの字に曲げた。
 まさか、雨に濡れてずぶ濡れになって、その結果のお風呂での…とは言えず、話をかなりはしょって。
「…昨日は結局、あいつのせいで、全然受験勉強が出来なかった。」
 不貞腐れたように告げて、視線を校庭に戻すと。
幸村の傍にいた体格の良い男子が、幸村にぎゅうと後ろからおんぶするようにくっついている。おしくらまんじゅうでもしているのだろうか。誰にでも、愛想が良くて、今も抱きつかれたまま、ケラケラと楽しげに笑っている。
「…っ。」イラッとした。
シャーペンをボキッと折りそうな勢いで、ぎゅっと手の中で握る。
 顔がしかめ面のまま、ぼそりと三成は呟く。
「私は、ああいうタイプ、暑苦しいから嫌いだ。」
「えー、そこまで言ってやるなよ。そりゃお前と幸村は違いすぎて、気が合わないかもしれねえけど。あいつだって、すっげいいやつだぜ。俺が保証する。」
それが今の自分は、妙に腹立たしいのだ。
 皆に優しくて、皆に愛想良くて、皆に好かれていて…、こっちの気も全く知らないで。
 自分にするように、誰かにニッコリ笑いかけると考えるだけで、胃の辺りがムカムカして、吐きそうになる。
「いっそ知り合わなければ、良かった…。」
 肘を突いて曇天を見上げた三成の、つるりと口から滑り出た言葉。
もしかしたら、これは本心からだったのかもしれない。
 知り合わなかったら、こんなに胸がかき乱されたりしなかった。こんなにも、見知らぬ誰かを憎んだりしなかった。
「み、三成…。」
あまりの三成の言葉に、校庭を眺めながら、元親は心配げにため息をついた。


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あきゅろす。
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